M&A(Mergers and Acquisitions)の概要
M&Aとは、企業の合併(Mergers)や買収(Acquisitions)のことを指し、他の企業を統合、または買収して成長を図る経営戦略です。
M&Aを通じて、企業は市場拡大や事業多角化、新規事業の獲得などを実現します。
M&Aの手法
1. TOB(Take Over Bid:株式公開買付け)
TOBとは、企業の株式を市場外で買い集める方法です。特定の株式を市場で公開し、あらかじめ決められた価格で一定数の株を買い取る旨を公示し、株主から直接株を購入します。これにより企業支配権を獲得しようとする場合があります。
- 具体例: 2006年、村上ファンドが東京スタイル(現在のアーバンコーポレーション)の株をTOBによって取得を試みました。
- メリット: 市場価格に影響を与えずに株式を買収できる。
- デメリット: 株主が応じなければ買収できない。
2. MBO(Management Buyout:経営陣による買収)
MBOとは、企業の経営陣が外部の資金を調達し、会社や事業の株式を買い取って独立を果たす手法です。既存の経営陣が自ら経営権を確保し、外部からの影響を排除することが目的です。
- 具体例: 2003年、日本のカジュアル衣料メーカー「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正社長がMBOを試みました。
- メリット: 経営陣が自律的に経営を行える。
- デメリット: 資金調達リスクが高く、事業の健全性が保たれない場合もある。
3. MBI(Management Buy-In:外部経営陣による買収)
MBIとは、外部の経営陣が企業を買収し、その経営を引き継ぐ手法です。外部の投資家が新たに経営陣として参画し、企業の改革や再建を目指します。
- 具体例: 2007年、外食チェーン「ジョナサン」の買収後に、新しい外部経営陣が経営を引き継ぎました。
- メリット: 経営改革や再建が期待できる。
- デメリット: 既存経営陣と外部経営陣との軋轢が発生する可能性がある。
4. LBO(Leveraged Buyout:借入金を利用した買収)
LBOとは、企業を買収する際に、買収対象企業の資産やキャッシュフローを担保にして資金を調達し、その資金で買収を行う手法です。通常、買収企業の自社資金だけでなく、大規模な借入を行うことで実施されます。
- 具体例: 1980年代、アメリカの大手食品会社「RJRナビスコ」の買収は、LBOの代表例です。コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が大型LBOを行い話題になりました。
- メリット: 小資本で大きな買収を実現できる。
- デメリット: 負債が大きくなり、財務リスクが高くなる。
買収防衛策
買収防衛策とは、敵対的な買収を防ぐために企業が採用する戦略です。主な手法は以下の通りです。
1. ポイズンピル(毒薬条項)
既存株主に対して新株を発行し、株式の希薄化を図ることで、敵対的買収者が経営権を握ることを防ぎます。
- 具体例: アメリカの多くの大企業が採用している手法で、日本ではカルビーがポイズンピルを導入しました。
2. ゴールデンパラシュート
買収された場合、経営陣に対して高額の退職金や特別な補償を支払う契約を予め結んでおくことで、買収者が経営陣の交代を思いとどまらせます。
- 具体例: 海外の多くの企業が採用しており、米国航空業界などでも使われています。
3. ホワイトナイト
敵対的買収者からの買収を回避するために、友好的な第三者に企業を買収してもらう手法です。
- 具体例: 2009年、キヤノンがホワイトナイトとして大塚商会を買収した例が挙げられます。
4. クラウンジュエル
企業の重要な資産や事業をあえて売却することで、敵対的買収者が興味を失うように仕向ける手法です。
- 具体例: 1980年代のアメリカ企業で、この手法が多く使用されました。
まとめ:M&Aの手法と買収防衛策の比較
手法・防衛策 | 概要 | 具体例 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
TOB | 株式公開買付けで株主から株を買い集める | 村上ファンドが東京スタイル株を取得しようとした事例 | 競争に巻き込まず買収できる | 株主の同意が必要 |
MBO | 経営陣が自ら企業を買収して独立する | ユニクロのMBO | 自律的な経営が可能 | 資金調達リスク |
MBI | 外部経営陣が企業を買収して経営を引き継ぐ | ジョナサンの外部経営陣による買収 | 経営改革や再建が期待できる | 既存経営陣との摩擦が生じる可能性 |
LBO | 買収対象企業の資産を担保に借入を行う | KKRによるRJRナビスコの買収 | 小資本で大規模な買収が可能 | 負債が増大し財務リスクが高まる |
ポイズンピル | 株式の希薄化で買収を困難にする | カルビー | 敵対的買収者の持分を減少させる | 既存株主の持分も希薄化する可能性 |
ゴールデンパラシュート | 高額な退職金や補償で経営陣を守る | 米国航空業界での事例 | 経営陣の交代を思いとどまらせる | 企業コストが増加する可能性 |
ホワイトナイト | 友好的な第三者に買収を依頼 | キヤノンによる大塚商会の買収 | 敵対的買収を回避できる | 友好的な第三者の協力が必要 |
クラウンジュエル | 重要資産を売却して買収者を牽制 | 1980年代アメリカ企業 | 買収者の興味を失わせる | 重要資産の売却が企業価値を損なう可能性 |
この表は、M&Aと買収防衛策に関する主要な手法と、それぞれの具体例やメリット、デメリットをまとめたものです。
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