DCF法とNPV法とIRR法と回収期間法|事業投資評価手法のメリットとデメリット

DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法: Discounted Cash Flow)NPV法(正味現在価値法: Net Present Value)IRR法(内部収益率法: Internal Rate of Return)回収期間法(Payback Period Method)は、投資の意思決定に使用される代表的な手法です。それぞれが異なるアプローチで投資の評価を行い、投資案件の採用や比較をサポートします。

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DCF法(Discounted Cash Flow)

DCF法は、将来にわたって予測されるキャッシュフローを現在価値に割り引くことによって、投資の価値を評価する方法です。キャッシュフローが発生する時点に応じてその価値が異なることを考慮し、リスクや資金コストを考慮に入れて、将来の収益を現在価値に変換します。

DCF法のポイント

  • 将来のキャッシュフローを割引率で割引し、その合計を現在価値として求める。
  • 割引率は通常、資本コスト(WACC: 加重平均資本コスト)や投資家が要求するリターン率を使います。
  • 計算式:
    $$\text{DCF} = \sum \left( \frac{\text{キャッシュフロー}}{(1 + r)^t} \right)$$
    (\(r\): 割引率、\(t\): キャッシュフローが発生する年)

利点

  • キャッシュフローのタイミングを考慮し、投資の時間価値を反映する。
  • リスクに応じた割引率を設定することで、投資リスクを反映した評価が可能。

注意点

  • キャッシュフローの予測や割引率の設定が重要なため、不確実性が高い場合には結果が大きく変わる可能性がある。

NPV法(Net Present Value: 正味現在価値法)

NPV法は、DCF法の一部であり、予測される将来キャッシュフローを現在価値に割り引き、その総額から初期投資額を差し引いて投資価値を評価する方法です。NPVが正であれば投資案件は利益を生むとされ、負であれば損失になると判断されます。

NPV法のポイント

  • 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて、その合計から初期投資額を引いたものがNPVです。
  • NPV > 0 の場合、投資は利益をもたらすと判断されます。
  • 計算式:
    $$\text{NPV} = \sum \left( \frac{\text{キャッシュフロー}}{(1 + r)^t} \right) – \text{初期投資額}$$

利点

  • 投資の価値が定量的に示されるため、投資判断が明確。
  • プロジェクトごとに比較がしやすく、NPVが高いものを選択する基準となる。

注意点

  • 割引率の設定やキャッシュフローの予測に依存するため、パラメータの不確実性が高い場合には注意が必要。

IRR法(Internal Rate of Return: 内部収益率法)

IRR法は、プロジェクトの将来キャッシュフローを基に、NPVがゼロとなる割引率を求め、その割引率が投資家が求めるリターン率(ハードルレート)より高ければ投資すべきと判断する方法です。

IRR法のポイント

  • IRRは、投資案件の内部収益率、すなわち投資がどれだけのリターンを生むかを表します。
  • IRRが設定した割引率(要求収益率)を上回る場合、投資は採算が取れると判断します。
  • 計算式:
    $$\sum \left( \frac{\text{キャッシュフロー}}{(1 + \text{IRR})^t} \right) = \text{初期投資額}$$

利点

  • 割引率の設定を行わずに投資の収益率を評価できるため、単純にIRRと要求収益率を比較することで投資判断ができる。
  • 比較的直感的に理解しやすい。

注意点

  • 複数のIRRが存在する場合があり、特にキャッシュフローが複雑なプロジェクトでは正しい判断が難しいことがある。
  • IRRが高くても、プロジェクトの規模やリスクが十分考慮されない場合がある。

回収期間法(Payback Period Method)

回収期間法は、初期投資をどのくらいの期間で回収できるかを評価する手法です。キャッシュフローの累積額が初期投資を超えるまでにかかる期間を求め、それが短いほど良いと判断します。

回収期間法のポイント

  • 投資から得られるキャッシュフローの合計が初期投資を上回るまでの期間を算出。
  • 回収期間が短いほど投資リスクが低く、優れた案件とされます。

計算式(単純な回収期間の場合)

$$\text{回収期間} = \frac{\text{初期投資額}}{\text{年間キャッシュフロー}}$$

利点

  • シンプルで直感的に理解しやすい。
  • 短期間で回収できるプロジェクトを優先することで、リスクを低減できる。

注意点

  • キャッシュフローのタイムバリュー(時間価値)を考慮しないため、長期的な収益性の判断ができない。
  • 回収期間以降のキャッシュフローは評価されないため、長期的に高い収益をもたらすプロジェクトが過小評価される可能性がある。

各手法の比較

手法特徴利点注意点
DCF法将来キャッシュフローを現在価値に割引投資の時間価値とリスクを反映割引率やキャッシュフロー予測の不確実性が影響
NPV法正味現在価値を計算し、投資価値を評価利益を定量的に示し、プロジェクト比較が容易割引率の設定が重要
IRR法投資案件の収益率を評価要求収益率との比較が容易で直感的複数のIRRが存在する場合、正しい判断が難しいことがある
回収期間法初期投資の回収までの期間を評価短期間で回収できるプロジェクトを優先し、リスクを抑えられるキャッシュフローの時間価値を無視し、長期的な収益性を評価できない

同じ条件下における計算例

各手法の理解を深めるため、DCF法NPV法IRR法回収期間法の具体的な例を使って説明します。これらの例では、ある投資プロジェクトに対して予想されるキャッシュフローと初期投資を基に、各手法で評価していきます。

前提条件

投資プロジェクトの情報

  • 初期投資額: 1,000万円
  • 毎年のキャッシュフロー: 1年目から4年目まで300万円、5年目に500万円
  • 割引率: 10%(資本コスト、要求収益率として)
  • 期待回収期間: 5年間

DCF法(Discounted Cash Flow)

DCF法では、将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に変換し、その合計を計算します。各年のキャッシュフローを10%で割り引いた現在価値を計算します。

各年のキャッシュフローの現在価値の計算

  • 1年目: \(\frac{300}{(1+0.1)^1} = \frac{300}{1.1} = 272.73\)万円
  • 2年目: \(\frac{300}{(1+0.1)^2} = \frac{300}{1.21} = 247.93\)万円
  • 3年目: \(\frac{300}{(1+0.1)^3} = \frac{300}{1.331} = 225.39\)万円
  • 4年目: \(\frac{300}{(1+0.1)^4} = \frac{300}{1.4641} = 204.90\)万円
  • 5年目: \(\frac{500}{(1+0.1)^5} = \frac{500}{1.61051} = 310.46\)万円

総現在価値

$$272.73 + 247.93 + 225.39 + 204.90 + 310.46 = 1,261.41 \text{万円}$$

DCF法による評価結果: このプロジェクトの総現在価値は\(1,261.41\)万円です。これが投資価値を示します。


NPV法(Net Present Value: 正味現在価値法)

NPV法では、DCF法で計算した現在価値から初期投資額を差し引き、正味の現在価値を計算します。先ほどのDCF法の結果から、初期投資1,000万円を差し引きます。

計算式

$$\text{NPV} = 1,261.41 – 1,000 = 261.41 \text{万円}$$

NPV法による評価結果: NPVがプラス261.41万円なので、この投資は利益を生むと判断されます。
NPVがプラスであれば、投資を行う価値があります。


IRR法(Internal Rate of Return: 内部収益率法)

IRR法は、NPVがゼロになる割引率を求める方法です。つまり、キャッシュフローの現在価値が初期投資額と一致する割引率(IRR)を求めます。

IRRを求めるには試行錯誤を行いますが、一般的にはエクセルや関数電卓を使用します。この例では、IRRを10%と仮定して計算します。実際に計算した場合、IRRは約15.24%となります。

IRR法による評価結果: IRRが10%の割引率を上回っているため、このプロジェクトは採算が取れると判断されます。


回収期間法(Payback Period Method)

回収期間法は、初期投資額をキャッシュフローでどれだけ早く回収できるかを計算します。

各年のキャッシュフローの累積

  • 1年目: 300万円
  • 2年目: 300 + 300 = 600万円
  • 3年目: 600 + 300 = 900万円
  • 4年目: 900 + 300 = 1,200万円(ここで初期投資の1,000万円を超える)

回収期間

4年目に1,000万円を回収するので、回収期間は約3.33年(4年目の途中)となります。

回収期間法による評価結果: このプロジェクトは3.33年で初期投資を回収できるため、5年間という基準を満たしています。


まとめ

手法結果判断基準
DCF法1,261.41万円割引後のキャッシュフローの現在価値の合計
NPV法261.41万円(プラス)NPVがプラスなので、投資は利益を生むと判断できる
IRR法15.24%IRRが要求収益率(10%)を上回っているため、採算が取れる
回収期間法3.33年回収期間が5年未満なので、投資は良好と判断

それぞれの手法が異なる視点で投資案件を評価しており、具体的な結果を得られます。場合によっては複数の手法を組み合わせて総合的に判断することが重要です。

まとめ

  • DCF法は、将来のキャッシュフローを割引して投資価値を評価する基本的な方法で、NPV法IRR法はこれを基にした具体的な評価手法です。
  • NPV法は定量的な利益を示すため、プロジェクトの比較に有用です。
  • IRR法は収益率を重視する場合に有効で、要求収益率との比較が容易です。
  • 回収期間法は短期的なリスクを重視する際に役立ちますが、長期的な収益性を評価するには不十分です。

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