時間観測法とPTS法(Predetermined Time Standards method)は、作業の効率向上を目指して工程や作業時間を分析する方法です。それぞれに特徴があり、目的に応じて使い分けることで、最適な作業設計や管理が可能になります。
時間観測法
時間観測法は、作業者が行う作業の所要時間をストップウォッチなどを使って直接計測し、標準時間を設定する方法です。この手法は、特定の作業に対して所要時間を測定してデータを蓄積し、作業改善や工程の最適化に役立てます。
時間測定法の歴史
時間観測法は、フレデリック・テイラー(科学的管理法の父)やフランク・ギルブレス(動作研究の提唱者)らの貢献により、20世紀初頭に広まりました。テイラーは作業の標準化と効率化に興味を持ち、ギルブレスは「モーションスタディ」により最も効率的な動作を見出すことに尽力しました。
時間測定法の使い方
- 作業分解:作業を詳細な要素(例:持ち上げる、移動するなど)に分解。
- 時間計測:分解した要素ごとにストップウォッチで時間を計測。
- データ補正:測定データに対して、作業者の疲労や環境条件などを考慮し補正。
- 標準時間の設定:計測結果を基に、各作業要素の標準時間を算出。
時間測定法の具体例 : 工場でのピッキング作業の効率化
- 目的:ピッキング作業にかかる標準時間を設定し、効率的な作業計画を立てる。
- 内容:ピッキング作業を「商品を見つける」「手を伸ばす」「商品を持ち上げる」「カートに移動する」などに分解し、それぞれの要素時間をストップウォッチで計測。得られたデータを基に、作業者が負担なく効率的に作業できるように作業手順を見直す。
- 効果:標準化された時間に基づくピッキング作業の管理が可能になり、生産性向上に寄与。
PTS法(Predetermined Time Standards method)
PTS法は、あらかじめ定められた作業要素ごとの標準時間をもとに、作業全体の時間を計算する方法です。PTS法にはいくつかの体系があり、代表的なものとしてMTM法(Methods-Time Measurement)やWF法(Work-Factor)が挙げられます。
MTM法(Methods-Time Measurement)
MTM法は、1948年にメトロポリタン・ライフ社によって開発され、標準的な作業要素ごとに所要時間を決めておき、それを基に作業全体の標準時間を見積もる手法です。MTMは、主に製造業や組立作業など、細かく作業が分割できる場面で有効です。
MTM法の歴史
MTM法は、第二次世界大戦後のアメリカで、戦争による需要増加に伴い、効率的な作業設計の必要性が高まったことから開発されました。開発以来、製造業を中心に広く普及し、現代でも生産管理や工場での作業分析に使われています。
MTM法の使い方
- 作業要素の特定:作業をMTM要素(例:移動、持ち上げ、掴むなど)に分解。
- 標準時間の適用:MTMの標準時間表に基づいて、各要素の所要時間を割り当て。
- 標準時間の集計:すべての要素時間を合計し、作業全体の標準時間を算出。
MTM法の具体例 : 自動車組立ラインでの部品取り付け作業
- 目的:部品取り付け作業の標準時間を確立し、作業工程を最適化する。
- 内容:取り付け作業を「部品を手に取る」「移動」「位置合わせ」「ネジ締め」といった要素に分解し、MTMの標準時間を基に時間を割り当てる。
- 効果:標準時間が確立され、ライン全体の作業負荷を均等化し、生産効率が向上。
WF法(Work-Factor)
WF法は、MTM法と同様のPTS法の一種ですが、より複雑な作業や全体のワークフローを考慮した時間測定に優れています。WF法は、複数の作業要素の時間を同時に測定するため、大きな動作や作業全体の評価に適しています。
WF法の歴史
WF法は、1950年代にヨーロッパを中心に開発され、製造業だけでなくサービス業にも応用されてきました。特に大規模な作業工程を効率化するための標準時間設定に強みがあります。
WF法の使い方
- 作業の抽出:全体の流れに基づいて作業要素を抽出。
- WF標準時間の適用:各作業要素にWFの標準時間を適用し、作業全体の所要時間を算出。
- 標準時間の確認と補正:WF法は大きな作業フローを前提としているため、作業全体の合理性や効率性を確認し、必要に応じて補正。
WF法の具体例 : 物流センターにおけるパレット積載作業
- 目的:物流センターの積載作業の効率を上げる。
- 内容:パレットへの積載作業を「品物を持つ」「パレットに置く」「位置調整」といった作業要素に分け、WF法の標準時間を用いて計測。作業時間の集計後に効率改善案を検討する。
- 効果:作業者ごとの負荷が平準化され、スムーズな積載作業が実現。
まとめ
- 時間観測法:直接的に時間を計測し、作業ごとの標準時間を設定する方法。工場などで細かい作業時間を分析・改善する場面に適しています。
- MTM法(PTS法の一種):あらかじめ定めた時間標準を基に作業全体の時間を割り出す。組立や製造ラインでの細かい作業時間の設定に有効です。
- WF法(PTS法の一種):作業全体の流れを考慮した標準時間設定。大規模なワークフローやサービス業にも応用可能です。
以下に、時間観測法、MTM法、WF法の特徴を表形式で比較します。
項目 | 時間観測法 | MTM法 | WF法 |
---|---|---|---|
概要 | 作業をストップウォッチなどで直接計測し、標準時間を設定する方法。 | あらかじめ決められた作業要素ごとの標準時間を使用して作業全体の時間を算出する方法。 | 作業全体の流れや大きな動作に基づいて、標準時間を算出する方法。 |
開発時期・背景 | 20世紀初頭(テイラー、ギルブレスの科学的管理法) | 1948年、アメリカで開発(製造業向けの効率向上) | 1950年代、ヨーロッパで開発(広範囲の作業効率向上) |
適用範囲 | 小規模な作業や詳細な動作分析に適している。 | 製造業の組立作業や分割可能な作業に適している。 | サービス業や物流業など、大きな作業フローに適している。 |
使用方法 | ストップウォッチなどで直接時間を計測。作業分解後に標準時間を設定。 | 作業を要素に分解し、MTMの標準時間表を使用して各要素の時間を計算。 | 作業要素にWFの標準時間を適用し、作業全体の所要時間を算出。 |
例 | 工場でのピッキング作業の標準時間設定 | 自動車の部品組立作業の標準時間設定 | 物流センターの積載作業の効率改善 |
利点 | 実際の作業に基づくため、現場での迅速な時間測定が可能。 | 定量化されたデータに基づき、効率的な作業設計が可能。 | 作業全体の流れを考慮した時間測定に優れ、大規模なフロー改善に適する。 |
欠点 | 測定に時間がかかる、個人差や環境の影響を受けやすい。 | 作業の細分化が必要で、細かすぎる場合は手間が増える。 | 作業要素が複雑な場合、精度の低下や適用が難しくなる。 |
それぞれの方法を適切に使い分けることで、作業効率の向上や生産性の向上が期待されます。
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