傾向分析モデルは、時間の経過に伴うデータの変化を理解するための手法であり、特に季節調整法は季節性の影響を排除して、データの基本的な傾向を把握するのに役立ちます。以下に、傾向分析モデルの一般式、具体例、及び数式を説明します。
傾向分析モデルの一般式
傾向分析モデルは通常、以下の一般式で表されます:
\[
Y_t = T_t + S_t + E_t
\]
- \( Y_t \):観測値(時点 \( t \) のデータ)
- \( T_t \):傾向成分(長期的なトレンド)
- \( S_t \):季節成分(季節的な変動)
- \( E_t \):誤差成分(ランダムな変動)
このモデルを用いて、データを傾向、季節性、そして誤差に分解します。
季節調整法
季節調整法は、季節成分を除去するために以下のステップで行われます:
- 移動平均法を用いて傾向成分 \( T_t \) を推定します。
- 季節成分を計算します。
- 季節調整済みのデータを得るために、観測値から季節成分を引きます。
具体的には、季節調整済みデータ \( Y_{adj} \) は次のように求められます:
\[
Y_{adj} = Y_t – S_t
\]
簡単な例 : ある店舗の月別売上高データ
ある店舗の月別売上高データが以下のようだとします。
月 | 売上高 (\( Y_t \)) | 移動平均 (\( T_t \)) | 季節成分 (\( S_t \)) | 季節調整済み (\( Y_{adj} \)) |
---|---|---|---|---|
1月 | 120 | 115 | 5 | 115 |
2月 | 140 | 130 | 10 | 130 |
3月 | 160 | 150 | 10 | 150 |
4月 | 180 | 170 | 10 | 170 |
5月 | 200 | 190 | 10 | 190 |
6月 | 220 | 210 | 10 | 210 |
7月 | 240 | 230 | 10 | 230 |
8月 | 260 | 250 | 10 | 250 |
9月 | 280 | 270 | 10 | 270 |
10月 | 300 | 290 | 10 | 290 |
11月 | 320 | 310 | 10 | 310 |
12月 | 340 | 330 | 10 | 330 |
数式の適用
傾向成分の計算
- 移動平均を用いて、例えば3か月の移動平均を使用して傾向成分 \( T_t \) を推定します。
季節成分の計算
- 各月の平均から傾向成分を引いて季節成分 \( S_t \) を求めます。
\[
S_t = Y_t – T_t
\]
季節調整済みデータの計算:
- 季節成分を観測値から引いて季節調整済みデータを得ます。
\[
Y_{adj} = Y_t – S_t
\]
例題:季節調整法によるGDPの予測
季節調整法を用いて、国民総生産(GDP)の推移を予測するプロセスを説明します。具体的なデータは仮定の数値を使用し、手順に沿って国民総生産の1期先、2期先、3期先の予測値を算出します。
原系列から季節変動の抽出を行う
仮定のデータとして、国民総生産(GDP)の四半期ごとの値を以下のように示します。
四半期 | GDP (兆円) |
---|---|
Q1 | 500 |
Q2 | 520 |
Q3 | 580 |
Q4 | 600 |
Q1 | 510 |
Q2 | 530 |
Q3 | 590 |
Q4 | 610 |
Q1 | 515 |
Q2 | 540 |
Q3 | 600 |
Q4 | 620 |
このデータから、季節変動を抽出するために四半期ごとの平均値を計算します。
四半期ごとの平均
\[
\text{平均}(Q1) = \frac{500 + 510 + 515}{3} = 508.33
\]
\[
\text{平均}(Q2) = \frac{520 + 530 + 540}{3} = 530
\]
\[
\text{平均}(Q3) = \frac{580 + 590 + 600}{3} = 590
\]
\[
\text{平均}(Q4) = \frac{600 + 610 + 620}{3} = 610
\]
次に、全体の平均を計算します。
\[
\text{全体平均} = \frac{500 + 520 + 580 + 600 + 510 + 530 + 590 + 610 + 515 + 540 + 600 + 620}{12} = 572.5
\]
季節成分の計算
季節成分は、各四半期の平均から全体平均を引いて計算します。
\[
S(Q1) = 508.33 – 572.5 = -64.17
\]
\[
S(Q2) = 530 – 572.5 = -42.5
\]
\[
S(Q3) = 590 – 572.5 = 17.5
\]
\[
S(Q4) = 610 – 572.5 = 37.5
\]
季節変動を取り除く
季節変動を取り除いたGDPの値を計算します。
\[
\text{季節調整済みGDP} = \text{GDP} – S_t
\]
四半期 | GDP (兆円) | 季節成分 | 季節調整済みGDP (兆円) |
---|---|---|---|
Q1 | 500 | -64.17 | 564.17 |
Q2 | 520 | -42.5 | 562.5 |
Q3 | 580 | 17.5 | 562.5 |
Q4 | 600 | 37.5 | 562.5 |
Q1 | 510 | -64.17 | 574.17 |
Q2 | 530 | -42.5 | 572.5 |
Q3 | 590 | 17.5 | 572.5 |
Q4 | 610 | 37.5 | 572.5 |
Q1 | 515 | -64.17 | 579.17 |
Q2 | 540 | -42.5 | 577.5 |
Q3 | 600 | 17.5 | 582.5 |
Q4 | 620 | 37.5 | 582.5 |
回帰分析により予測値を算出する
季節調整済みGDPを使って回帰分析を行います。ここでは単純な線形回帰モデルを使って、次の四半期のGDPを予測します。例えば、四半期を数値に変換して、以下のようなデータを用います。
- \( X \):四半期(1, 2, 3, …, 12)
- \( Y \):季節調整済みGDP
四半期 (X) | 季節調整済みGDP (Y) |
---|---|
1 | 564.17 |
2 | 562.5 |
3 | 562.5 |
4 | 562.5 |
5 | 574.17 |
6 | 572.5 |
7 | 572.5 |
8 | 572.5 |
9 | 579.17 |
10 | 577.5 |
11 | 582.5 |
12 | 582.5 |
ここでは単純な線形回帰モデルを以下のように仮定します:
\[
Y = a + bX
\]
このモデルのパラメータ \( a \) と \( b \) を求めるために、最小二乗法を使います。仮に以下のように求めたとしましょう:
- \( a \) = 550
- \( b \) = 2.5
予測値の計算
次の四半期(1期先)、2期先、3期先の予測値は次のようになります。
- 1期先(Q1-2024):
\[
Y_{1} = 550 + 2.5 \times 13 = 556.5
\] - 2期先(Q2-2024):
\[
Y_{2} = 550 + 2.5 \times 14 = 559
\] - 3期先(Q3-2024):
\[
Y_{3} = 550 + 2.5 \times 15 = 561.5
\]
まとめ
このように、季節調整法を用いて国民総生産の推移を分析し、1期先、2期先、3期先のGDPを予測することができます。実際のデータに基づいて適切な分析を行うことで、より精度の高い予測が可能となります。
結論
このように、傾向分析モデルを利用することで、データに含まれる季節的な変動を排除し、より正確な傾向を把握することができます。これにより、ビジネスの意思決定や戦略策定に役立てることができます。
コメント