PDCAサイクルの”A”は「Act」 or 「Action」?どこの誰が考えたの?【品質に関与する方必見】

別の記事でPDCAサイクルのAは「Act」と説明しましたが、「本当にそうなのか?」と疑問に持ち続けてモヤモヤしていたため、PDCAサイクルができるまでの歴史を遡って調べました。
その中で、品質管理・改善手法の発展の歴史を学ぶことができました。
国内外のウェブ情報も参考になりましたが、米国で発行された論文が最も有用な資料でした。

この記事では「Act」と説明しました

こんな方にオススメ
  • PDCAサイクルの成り立ちを知りたい
  • PDCAサイクルは、どこの国で生まれたのか知りたい
  • 品質保証、品質管理に関与している
目次

PDCAサイクルとは

Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)という一連の仮説・検証プロセスを実施します。
最後のActを次のPlanにつなげることで、マネジメント品質を継続的に改善する手法
です。
そして、実施内容の頭文字をとったものが「PDCAサイクル」です。


Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)それぞれのアクションを簡単に説明します。

Plan(計画)

従来の実績や将来の予測などをもとに、目標・目的を設定し実行計画を作成します。

Do(実行)

計画に沿って業務を実行します。

Check(評価)

実行した結果が、計画した目標・目的に沿っているか否かを評価する。
つまり、現在値と目標値の差異分析です。

Action(改善)

評価結果から、計画に沿っていない部分に改善を加えます。

米国参考書での説明

Wikipedia日本版では、PDCAサイクルは日本でしか使われていないような記述があります (2023年1月20日)。

主に日本で使われている[ 1]。AをActionとする場合もある[1]
注釈

^ アメリカでは日本企業の工場でPDCAが使われている。日本では独自のPDCAの書籍が多く出版されている。

引用: Wikipedia 日本版

このような記述は Wikipedia 米国版 にはありません
国際規格にもPDCAサイクルの記載があるにもかかわらず、「日本独特のガラパゴス的手法」かのような記述には違和感を覚えました。
ということで、手元にある米国で出版された参考書の記述を調べました。

結論は、決してPDCAサイクルは日本だけで使われているわけではなく、世界中で継続的改善手法として認識されていることがわかります。

The ASQ Certified Quality Auditor Handbook, 5th Edition

本書は、ASQ (American Society for Quality)から出版されており、世界中の品質にかかわる従事者に読まれています。
ASQは資格認定制度を有しており、資格認定者は世界中にいます。

日本ではメジャーな資格ではないですけどね。

PLAN-DO-CHECK-ACT (PDCA/PDSA) CYCLE

The seven-step problem-solving model presented earlier is actually nothing more than a more detailed version of a general process improvement model originally developed by Walter A. Shewhart.16 The plan-do-check-act (PDCA) cycle was adapted by W. Edwards Deming as the plan-do-study-act (PDSA) cycle, emphasizing the role of learning in improvement. In both cases, action is initiated by developing a plan for improvement, followed by putting the plan into action.

In the next stage, the results of the action are examined critically.

  • Did the action produce the desired results?
  • Were any new problems created?
  • Was the action worthwhile in terms of cost and other impacts?

The knowledge gained in the third step is acted on. Possible actions include changing the plan, adopting the procedure, abandoning the idea, modifying the process, amplifying or reducing the scope, and then beginning the cycle all over again. Shown in Figure 18.24, the PDCA/PDSA cycle captures the core philosophy of continual improvement.

引用: The ASQ Certified Quality Auditor Handbook, 5th Edition

本書では、「PDCA/PDSA サイクルは、継続的改善のコア思想」と説明されています。

PMBOK GUIDE, 6th Edition

正式名称は“A Guide to the Project Management Body of Knowledge”で、米国の Project Management Institute (PMI)から出版されている、「プロジェクトマネジメント ガイド本」です。
7th Edition への改定によって、内容が大幅に削減されるとともに、「概念的説明」に変わりました。
よって、6th Edition から引用しました。

PMIは、Project Management Professional (PMP)という資格制度を有しており、IT業界、建設業界を中心に、プロジェクトマネジメントに関わる世界中の従事者がこの資格を有しています。

こんな説明です

プラン–ドゥ–チェック–アクト (PDCA: Plan–Do–Check–Act). 組織内でプロセスやプロダクトのコントロールと継続的改善を促進するために使用される反復的なマネジメント方法。

An iterative management method used in organizations to facilitate the control and continual improvement of processes and products.

継続的な改善: PDCA(plan-do-check-act)サイクルは、シューハートが定義し、デミングが修正してできた品質改善の基本である。加えて、総合的品質マネジメント(TQM)やシックスシグマ、リーン・シックスシグマなどの品質改善運動は、最終的なプロダクトやサービス、または所産の品質を改善するとともにプロジェクトマネジメントの品質も改善するものである。

引用: PMBOK GUIDE, 6th Edition

製品・サービス、プロジェクトマネジメントの継続的改善の基本」と、定義されています。

PDCA サイクルの歴史

結論から言いますと、

「PDCA サイクル」は日本生まれです

では、誕生までの歴史を説明いたします。

1939年:ウォルター シュワート (Walter Andrew Shewhart)

アメリカ ベル研究所の物理学者で、「仕様 Specification →生産 Production → 検査 Inspection 」というシュワート・サイクル (Shewhart Cycle)、「SPIサイクル」を提言しました。
つまり、PDCAのPDCまでのサイクルです。

シュワートさん、自分の理論に「A」の要素を付けられて不満だったそうです。。。

1950年:エドワーズ デミング (William Edwards Deming)

シュワートの弟子の統計学者でした。
日本科学技術連盟(略称: 日科技連)で統計的品質統制 SQC (Statical Quality Control) の講演を行いました。

その際にシュワート・サイクルを進化させた、
「設計 Design →生産 Produce →販売 Sell →再設計 Redesign 」からなる「DPSR サイクル」を紹介しました。
これを、デミング ホイール (Deming Wheel) と呼びます。

1951年:石川 馨 (日科技連)

デミングの講義ののち、石川馨らのグループが世界初のPDCAの講義を日科技連で行った際に、
『計画・実行・チェック・アクション』というサイクルを紹介しました。
グループメンバーの誰が命名したのかは、わかっていません。

ここで初めて「PDCA」がそろい、後に英訳されてPDCA Cycleになって世界中に広がりました。

名探偵鹿夫は、「英訳されたときに動詞で揃えた」と、推測しています。

1986-1993年:再度 エドワーズ デミング (William Edwards Deming)

「PDCA」ではなく、「学習改善のためのPDSAサイクル(Study(調査))」が英語としては適切と、提唱しました。

そりゃそうですけど、実際にCheckで行っていることはStudyと同じです。
Check で言葉通りに、「差異」しか測定せず「分析」をしていなかったら、次の「Act」につなげられません。

PDCAサイクルが日本生まれなので、ニュアンスの違いは大目に見てくださいよ~

「PDCAサイクル」のAは、、、?

「PDCA サイクル」のAは正式には「Actですが、
「Deming-Shewhart-石川 PDCAサイクル」ならば「Action」で構わないでしょう。
万が一、誰かに指摘されたら「PDCAサイクルの歴史」を教えてあげるとよいでしょう。

PDCAサイクルの事例

事例1: 製造業の品質改善プロジェクト

ある製造業の会社では、製品の不良率を削減するためにPDCAサイクルを導入しました。

  • Plan(計画):
    • 目標: 不良率を3%から1.5%に削減する。
    • 具体的なアクション: 生産ラインの各ステージで品質管理の強化を図る。原因を特定するために工程内でのトレーサビリティを高め、作業標準化を進める。
    • 対策: 各工程の品質チェックポイントを設定し、不良が発生する可能性のあるプロセスを洗い出し、改善計画を立てる。
  • Do(実行):
    • 対策として、各工程で追加の品質チェックを実施。オペレーターへのトレーニングも強化し、作業手順の徹底を図る。
    • また、定期的な生産ラインの検査と不具合発生時の即時フィードバックを実施。
  • Check(確認):
    • 1ヶ月後、ラインの全体の不良率を分析。データを確認したところ、不良率は2%に減少しているが、目標の1.5%には到達していない。
    • 不良品の発生原因を再度分析し、特定の工程での品質管理が不十分であることを発見。
  • Act(改善):
    • 問題の工程にさらに詳細なチェックを導入し、品質管理システムを強化。
    • PDCAサイクルを継続的に回すことで、最終的には目標の1.5%以下に達成。

事例2: ソフトウェア開発プロジェクト

ソフトウェア開発チームが新しい機能のリリースプロセスを改善するためにPDCAサイクルを使用しました。

  • Plan(計画):
    • 目標: リリース時の不具合報告を20%削減する。
    • 対策: コードレビューやテスト工程を強化し、テストケースのカバレッジを拡大する。
  • Do(実行):
    • コードレビューを徹底し、機能テストの自動化を導入。各スプリントの終了後にリグレッションテストを実施。
  • Check(確認):
    • リリース後に不具合の数を確認。初期段階での不具合は10%減少したが、さらに改良の余地があると判断。
  • Act(改善):
    • テストケースの追加、特にエッジケースを考慮したテストの実施。
    • フィードバックに基づき、今後のスプリントでテストの見直しと改善を継続。

事例3: 小売業の顧客満足度向上プロジェクト

ある小売店では、顧客満足度の向上を目指してPDCAサイクルを導入しました。

  • Plan(計画):
    • 目標: 顧客満足度アンケートで「非常に満足」の割合を60%から70%に引き上げる。
    • 対策: 店舗のスタッフの接客態度やスピードを改善し、品揃えや清潔さを向上させる。
  • Do(実行):
    • スタッフへの研修を実施し、接客スキルの向上を図る。店内の清掃頻度を増やし、商品配置の見直しも行う。
  • Check(確認):
    • 1ヶ月後、アンケート結果を分析したところ、満足度は64%に向上しているが、まだ目標には達していない。
  • Act(改善):
    • 顧客の意見に基づき、さらに接客スピードを改善するための具体的なアクションプランを策定。店舗スタッフの追加トレーニングを実施し、PDCAを継続して回す。

PDCAサイクル実施の留意点

PDCAサイクルを効果的に回すためには、いくつかの重要な留意点があります。

明確な目標設定

  • PDCAの最初のステップである「Plan」の段階で、具体的で測定可能な目標を設定することが不可欠です。曖昧な目標だと、改善策の効果を評価する際に不明瞭な結果を招く恐れがあります。SMARTの原則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)に基づいて目標を設定することが推奨されます。

データに基づく評価

  • 「Check」の段階では、定量的なデータに基づいた評価を行うことが重要です。実施した対策がどの程度効果を発揮しているか、数値で確認することができなければ、正確なフィードバックや改善が難しくなります。適切なデータ収集システムの整備が必要です。

継続的なサイクルの回転

  • PDCAサイクルは、一度完了したら終わりではなく、継続的に改善を行うために何度も繰り返し回すことが重要です。最初のサイクルで全ての問題が解決しない場合でも、次のサイクルでさらに改善策を講じることで、目標達成に近づけます。

関係者の巻き込み

  • PDCAサイクルを実行する際には、関係者全員を巻き込むことが重要です。特に「Do」や「Act」の段階で現場の協力が不可欠なため、トップダウンだけでなく、ボトムアップのアプローチも必要です。全員が目標や進捗状況を共有できるようにすることが求められます。

適切な改善策の選定

  • 「Act」の段階で改善策を選定する際、原因分析が不十分だと本質的な改善に繋がらないことがあります。根本原因をしっかり特定した上で、最適な対策を講じることが重要です。

リーダーシップと継続的なサポート

  • PDCAサイクルを継続して実施するためには、リーダーシップと組織のサポートが必要です。現場だけに任せず、経営層やマネージャーが積極的にプロセスを支援し、進捗を確認する体制が重要です。

さいごに

PDCAサイクルとは
  • Aは「Act」が正しい⇒理由は、動詞で揃えるため
  • 日本生まれ
  • 製品の品質管理手法から発展し、経営、マネジメントにも活用されている

この記事を書くにあたって、国内外のネット情報と書籍を調べました。
気づいたことは、「英語版のほうが詳細に説明している」ということです。
特に、違和感を覚えたのはWikipediaの説明です。

Wikipedia日本版のPDCAサイクルの説明は不十分かつ、悪い印象を与え、『「OODAループ」は新しくて優位である』と、誘導したい意図が見えます。

日本生まれのPDCAサイクルが、なぜか日本で不当に扱われているのは残念ですね。
Wikipedia 英語版のほうが中立で、より詳細な説明がされています。

おまけ

この記事ではPDCAサイクルの成り立ちの歴史を説明しました。
更に学びたい方に参考書を紹介いたします。

まんがで身につくPDCA

PDCAという言葉を聞いたことが無いビジネスマンはほとんどいないと思います。
一方、「知ったつもり」になっている方も多いと思います。
初心者、PDCAに関する勉強をしたことが無い、
という方にベストな一冊です。

●実例を交えたマンガによってPDCAサイクルの説明をするので、文字だけの説明よりも内容を理解しやすい
短時間で読める

というメリットがあります。
「マンガだからレベルが低い」というような偏見は捨てて、まず読んで欲しいです。
私はいつも、自己啓発本やビジネスに関する書籍を読んだ後、「知っていること、当たり前のことがが書いてあった」と感じます。

だからと言って無駄だとは思いません。
「知ったつもり」だった知識が体系的にまとめられている本を読むことで、記憶や理解は深くなり、広がるからです。

楽天ブックス
¥1,320 (2024/11/20 18:27時点 | 楽天市場調べ)

鬼速 PDCA

「鬼速」という刺激的な頭文字がついた書籍です。
PDCAの実践方法について、活用方法について具体的に解説されています。

私は、KPI とPDCAを絡めた運用方法が書かれているところが特徴でしょう。
達成しなければならないKPI(ゴール、目標、課題)を定量化する手法の説明があり、Planを決める参考になります。

あわせて読みたい
重要目標達成指標KGI と 重要業績評価指標KPI KGI (Key Goal Indicator) と KPI (Key Performance Indicator) は、組織やプロジェクトの目標達成において重要な指標であり、管理や評価の際に役立つ指標です。それぞ...

仕事に限らず、プライベートにも活用することができます。

楽天ブックス
¥1,408 (2024/11/20 18:27時点 | 楽天市場調べ)

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメント一覧 (2件)

コメントする

目次