ISO 9001:2015は、企業活動を行う中で文書化した情報 (Documented Information) を要求しています。
「文章」とは、方針書、ガイドライン、手順書、検査記録などが該当します。
「文章化した情報を維持 or 保持 or 保管すること」という使われ方がされています。
維持
文書化した情報の「維持」(maintain) : 物事を同じままの状態で持続させること
ISO 9001:2008年版では「文書」(documented)に該当します。「文章化する」イメージです。
保持
文書化した情報の「保持 」(retain) : 保ちつづけること
ISO 9001:2008年版では「記録」(record)に該当します。「記録を維持」という使われ方でした。
また、「保管」というワードが1か所で使用されています。
これは「維持+保持 」というイメージです。
この記事では、わかりやすいように次のように表示しています。
「文章化した情報」 : 斜体
「維持」 : 青色
「保持 」 : 橙色
「保管」 : 緑色
「文章化した情報」の作成と管理 ISO 9001 Clause 7.5
では、何に対して「文章化した情報」を作成し、どのような管理が要求されているのでしょうか。
「文章化した情報」の取り扱いについては、ISO 9001 Clause 7.5に記載があります。
7.5 文書化した情報
7.5.1 一般
組織の品質マネジメントシステムは,次の事項を含まなければならない。
a) この国際規格が要求する文書化した情報
b) 品質マネジメントシステムの有効性のために必要であると組織が決定した,文書化した情報注記 品質マネジメントシステムのための文書化した情報の程度は,次のような理由によって,それぞれの組織で異なる場合がある。
– 組織の規模,並びに活動,プロセス,製品及びサービスの種類
引用: ISO 9001 2015
– プロセス及びその相互作用の複雑さ
– 人々の力量
「何が何でも手順書を作成しなければならない!」と思い込んでいる組織が多いですが、すべてのプロセスに対して文章化を求めているわけではありません。
最終品質に影響を与える重要と判断とした項目のみを文章化すればよいのです。
7.5.2 作成及び更新
文書化した情報を作成及び更新する際,組織は,次の事項を確実にしなければならない。
a) 適切な識別及び記述(例えば,タイトル,日付,作成者,参照番号)
引用: ISO 9001 2015
b) 適切な形式(例えば,言語,ソフトウェアの版,図表)及び媒体(例えば,紙,電子媒体)
c) 適切性及び妥当性に関する,適切なレビュー及び承認
トレーサビリティの要求事項です。
– 「作成者」がイニシャル表記だが、同じイニシャルの方が何人もいたりしませんか?
– 承認者は設定されていますか?
7.5.3 文書化した情報の管理
7.5.3.1品質マネジメントシステム及びこの規格で要求されている文書化した情報は,次の事項を確実にするために,管理しなければならない。
a) 文書化した情報が,必要なときに,必要なところで,入手可能かつ利用に適した状態である。
b) 文書化した情報が十分に保護されている(例えば,機密性の喪失,不適切な使用及び完全性の喪失からの保護)。7.5.3.2 文書化した情報の管理に当たって,組織は,該当する場合には,必ず,次の行動に取り組まなければならない。
a) 配付,アクセス,検索及び利用
b) 読みやすさが保たれることを含む,保管及び保存
c) 変更の管理(例えば,版の管理)
d) 保持及び廃棄品質マネジメントシステムの計画及び運用のために組織が必要と決定した外部からの文書化した情報は,必要に応じて,特定し,管理しなければならない。
適合の証拠として保持 する文書化した情報は,意図しない改変から保護しなければならない。
注記 アクセスとは,文書化した情報の閲覧だけの許可に関する決定,又は文書化した情報の閲覧及び変更の許可及び権限に関する決定を意味し得る。
引用: ISO 9001 2015
有効に使用するための管理方法の要求事項です。
– 最新版の識別はできますか?
-旧版が混じっていませんか?
-目的の図書がどこにあるのか知っていますか?
最新版を電子版で管理していれば,、この項目の要求を遵守できる場合が多いです。
ただし、旧版をプリントアウトして(識別なしで)使用していたらNGですね。
「文章化した情報」の維持・保持を義務付けている項目は?
ここでは、ISO 9001 2015が「文書化した情報」を義務付けている項目を紹介します。
維持が要求されている情報は少なく、4. 組織の状況(2つ)、5. リーダーシップ(1つ)、6. 計画(1つ)の4情報のみです。
「文章化した情報を維持」は「情報を図書化」、
「文章化した情報を保持 」は「情報を記録」と読み替えると理解しやすいですよ
4. 組織の状況
4.3品質マネジメントシステムの適用範囲の決定
組織の品質マネジメントシステムの適用範囲を定めるために,その境界及び適用可能性を決定しなければならない。
この適用範囲を決定するとき、組織は、次の事項を考慮しなければならない。
a) 4.1に規定する外部及び内部の課題
b) 4.2に規定する、密接に関連する利害関係者の要求事項
c) 組織の製品及びサービス
組織の品質マネジメントシステムの適用範囲は、文書化した情報として利用可能な状態にし,維持しなければならない。4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス
引用: ISO 9001 2015
4.4.2 必要な程度において,組織は,次の事項を行わなければならない。
a) プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持する。
b) プロセスが計画どおりに実施されたと確信するための文書化した情報を保持する。
維持
- 組織の品質マネジメントシステムの適用範囲
- プロセスの運用を支援するための情報
保持
- プロセスが計画どおりに実施されたと確信するための情報
5. リーダーシップ
5.2 方針
引用: ISO 9001 2015
5.2.2 品質方針の伝達
品質方針は、次に示す事項を満たさなければならない。
文書化した情報として利用可能な状態にされ,維持される。
維持
- 品質方針
6. 計画
6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定
引用: ISO 9001 2015
6.2.1 組織は,品質マネジメントシステムに必要な,関連する機能,階層及びプロセスにおいて,品質目標を確立しなければならない。
品質目標は、次の事項を満たさなければならない。
a) 品質方針と整合している。
b) 測定可能である。
c) 適用される要求事項を考慮に入れる。
d) 製品及びサービスの適合、並びに顧客満足の向上に関連している
e) 監視する。
f) 伝達する。
g) 必要に応じて、更新する。
組織は,品質目標に関する文書化した情報を維持しなければならない。
維持
- 品質目標
7. 支援
7.1 資源
7.1.5 監視及び測定のための資源
7.1.5.1 一般要求事項に対する製品サービスの適合を検証するために監視又は測定を用いる場合、組織は、結果が妥当で信頼できるものであることを確実にするために必要な資源を明確にし、提供しなければならない。
組織は、用意した資源が次の事項を満たすことを確実にしなければならない。
a) 実施する特定の種類の監視及び測定活動に対して適切である。
b) その目的に継続して合致することを確実にするために維持されている。
組織は,監視及び測定のための資源が目的と合致している証拠として,適切な文書化した情報を保持しなければならない。7.1.5.2 測定のトレーサビリティ
測定のトレーサビリティが要求事項となっている場合、又は組織がそれを測定結果の妥当性に信頼を与えるための不可欠な要素とみなす場合には、測定機器は、次の事項を満たさなければならない。a) 定められた間隔で又は使用前に,国際計量標準又は国家計量標準に対してトレーサブルである計量標準に照らして校正若しくは検証、又はそれらの両方を行う。そのような標準が存在しない場合には、校正又は検証に用いたよりどころを、文書化した情報として保持する。
引用: ISO 9001 2015
保持
- 監視及び測定のための資源が目的と合致している証拠
- 標準が存在しない場合、校正又は検証に用いたよりどころ
7.2 力量
組織は、次の事項を行わなければならない。
a) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人〈又は人々〉に必要な力量を明確にする。
引用: ISO 9001 2015
b) 適切な教育、訓練又は経験に基づいて、それらの人々が力量を備えていることを確実にする。
c) 該当する場合には、必ず、必要な力量を身に付けるための処置をとり、とった処置の有効性を評価する。
d) 力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する。
保持
- 力量の証拠
8. 運用
8.1 運用の計画及び管理
e) 次の目的のために必要とされる程度、文書化した情報の明確化及び保管
引用: ISO 9001 2015
1) プロセスが計画どおりに実施されたという確信をもつ。
2) 製品及びサービスの要求事項への適合を実証する。
注記 “保管”とは,文書化した情報を維持し,かつ,保持することを意味している。
保管
1) プロセスが計画どおりに実施されたという確信をもつ。
2) 製品及びサービスの要求事項への適合を実証する。
ために必要とされる情報
8.2 製品及びサービスの要求事項
8.2.3 製品及びサービスに関連する要求事項のレビュー
引用: ISO 9001 2015
8.2.3.2 組織は,該当する場合には,必ず,次の事項に関する文書化した情報を保持しなければならない。
a) レビューの結果
b) 製品及びサービスに関する新たな要求事項
8.2.4 製品及びサービスに関する要求事項の変更
製品及びサービスに関する要求事項が変更されたときには,組織は,関連する文書化した情報を変更することを確実にしなければならない。
また,変更後の要求事項が,関連する人々に理解されていることを確実にしなければならない。
保持
- 要求事項のレビューの結果、レビューの結果生じた新たな要求事項
8.3 製品及びサービスの設計・開発
8.3.2 設計・開発の計画
j) 設計・開発の要求事項を満たしていることを実証するために必要な文書化した情報
8.3.3 設計・開発へのインプット
インプットは、設計・開発の目的に対して適切で、漏れがなく、曖昧でないものでなければならない。設計・開発へのインプット間の相反は、解決しなければならない。 組織は,設計・開発へのインプットに関する文書化した情報を保持しなければならない。
8.3.4 設計・開発の管理
組織は、次の事項を確実にするために、設計・開発プロセスの管理を適用しなければならない。
a) 達成すべき結果を定める。
b) 設計・開発の結果の、要求事項を満たす能力を評価するために、レビューを行う。
c) 設計・開発からのアウトプットが、インプットの要求事項を満たすことを確実にするために、 検証活動を行う。
d) 結果として得られる製品及びサービスが、指定された用途又は意図された用途に応じた要求 事項を満たすことを確実にするために、妥当性確認活動を行う。
e) レビュー、又は検証及び妥当性確認の活動中に明確になった問題に対して必要な処置をとる。
f) これらの活動についての文書化した情報を保持する。8.3.5 設計・開発からのアプトプット
組織は、設計・開発からのアプトプットに関する文書化した情報を保持しなければならない。
8.3.6 設計・開発の変更
組織は,次の事項に関する文書化した情報を保持しなければならない。
a) 設計・開発の変更
引用: ISO 9001 2015
b) レビューの結果
c) 変更の許可
d) 悪影響を防止するための処置
保持
- 設計・開発へのインプット
- 達成すべき結果、レビュー、検証活動、妥当性確認、問題に対してとった処置
- 設計・開発からのアプトプット
- 設計・開発の変更。変更レビューの結果
8.4 外部から提供されるプロセス,製品及びサービスの管理
8.4.1 一般:
組織は,要求事項に従ってプロセス又は製品・サービスを提供する外部提供者の能力に基づいて,外部提供者の評価,選択,パフォーマンスの監視,及び再評価を行うための基準を決定し,適用しなければならない。組織は,これらの活動及びその評価によって生じる必要な処置について,文書化した情報を保持しなければならない。
引用: ISO 9001 2015
保持
外部提供者能力に関する、
- 評価
- 選択
- パフォーマンス
- 再評価するための基準
- 上記の結果、必要な処置 (取引停止など)
8.5 製品及びサービス提供
8.5.1 製造及びサービス提供の管理
管理された状態には,次の事項のうち,該当するものについては,必ず,含めなければならない。
a) 次の事項を定めた,文書化した情報を利用できるようにする。
1) 製造する製品,提供するサービス,又は実施する活動の特性。
2) 達成すべき結果8.5.2 識別及びトレーサビリティ
トレーサビリティが要求事項となっている場合には,組織は,アウトプットについて一意の識別を管理し,トレーサビリティを可能とするために必要な文書化した情報を保持しなければならない。
8.5.3 顧客又は外部提供者の所有物
顧客若しくは外部提供者の所有物を紛失若しくは損傷した場合,又はその他これらが使用に適さないと分かった場合には,組織は,その旨を顧客又は外部提供者に報告し,発生した事柄について文書化した情報を保持しなければならない。
8.5.6 変更の管理
組織は,変更のレビューの結果,変更を正式に許可した人々及びレビューから生じた必要な処置を記載した、文書化した情報を保持しなければならない。
引用: ISO 9001 2015
保持
- アウトプットの特性と、達成すべき結果
- トレーサビリティのための識別
- 顧客・外部提供者の所有物の紛失、損傷などの事柄
- 変更レビューの結果・承認者・処置内容
8.6 製品及びサービスのリリース
組織は,製品及びサービスのリリースについて文書化した情報を保持しなければならない。これには,次の事項を含まなければならない。
a) 合否判定基準を伴った,適合の証拠
引用: ISO 9001 2015
b) リリースを正式に許可した人(人々)に対するトレーサビリティ
保持
製品・サービスリリースの、
- 合否判定基準と適合の証拠
- リリース承認者
8.7 不適合なアプトプットの管理
8.7.2 組織は次の事項を行った文書化した情報を保持しなければならない。
a) 不適合の記載
引用: ISO 9001 2015
b) とった処置の記載
c) 取得したあらゆる特別採用の記載
d) 不適合に関する処置について決定を下す権限をもつ者の特定
保持
不適合の内容、処置、特別採用、承認者
9. パフォーマンス評価
9.1 監視、測定、分析及び評価
9.1.1 一般
組織は,パフォーマンス及び品質マネジメントシステムの有効性を評価しなければならない。
組織は,この結果の証拠として,適切な文書化した情報を保持しなければならない。9.2 内部監査
9.2.2 組織は,次に示す事項を行わなければならない。
f) 監査プログラムの実施及び監査結果の証拠として、文書化した情報を保持する。
9.3 マネジメントレビュー
9.3.3 マネジメントレビューからのアウトプット
引用: ISO 9001 2015
組織は,マネジメントレビューの結果の証拠として、文書化した情報を保持しなければならない。
保持
- パフォーマンス及び品質マネジメントシステムの有効性を評価結果
- 内部監査の実施及び監査結果
- マネジメントレビューの結果
10. 改善
10.2 不適合及び是正処置
10.2.2 組織は,次に示す事項の証拠として、文書化した情報を保持しなければならない。
a) 不適合の性質及びそれに対してとったあらゆる処置
引用: ISO 9001 2015
b) 是正処置の結果
保持
- 不適合の性質及びそれに対してとったあらゆる処置
- 是正処置の結果
まとめ
ISO 9001自体は過剰な図書作成を要求していないことを理解していただけたでしょうか。
この記事のポイントをまとめました。
- 「文章化した情報を維持」は「情報を図書化」、「文章化した情報を保持」は「情報を記録」と読み替えると理解しやすい
- 「維持」が要求されているのは4項目のみ
- 「保持」が要求されている項目は、最終製品・サービスの品質、何かあったときのトレーサビリティ、改善を施すために必要な情報、を確保するために必要な情報
ISO 9001 の要求事項を拡大解釈して「取得のための図書」「ISO 対策の図書」を作らず、この規格が要求している要求の本質を理解して、現場に即した図書を作成しましょう。
監査をしていて、図書に関する指摘はしやすいんですよね。
特に、紙でしか管理していない組織は。。。
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