「キャリアアンカー(Career Anchor)」は、MITのエドガー・シャインが提唱した概念で、個人がキャリアにおいて最も大切にする価値や動機のことを指します。キャリアアンカーは、個人のキャリアにおける判断や行動の基盤となり、その人が求める仕事や働き方の方向性を決めるもので、転職やキャリアの決断に大きな影響を及ぼします。
キャリアアンカーを構成する3要素
キャリアアンカーには、それぞれ「動機」「コンピタンス(能力)」「価値観」の3つの要素が組み合わさっており、これらが個人のキャリアにおける重要な判断基準を形作っています。この3つの要素のバランスにより、個人のキャリアアンカーがどのように構成されるかが決まります。
動機(Motivation)
動機は、個人がキャリアにおいて何を望み、どのような報酬や満足感を求めるかという内的な欲求を指します。動機は、どのような仕事や役割に魅力を感じ、やる気を高めるのかに大きく影響します。キャリアアンカーの動機がはっきりしていると、その個人にとって理想的なキャリアが明確になり、職務選択や転職の際に方向性を示す重要な手がかりとなります。
- 例:専門技術を磨きたい、社会貢献をしたい、独立して自由に働きたい、など。
コンピタンス(Competence)
コンピタンスは、その人がキャリアにおいて発揮するスキルや能力のことを指します。これは、専門的な技術力やマネジメントスキルだけでなく、対人能力や問題解決能力なども含まれます。キャリアアンカーを通じて、自分が得意とする分野や磨きたい能力が明確になると、キャリア上での自信ややりがいも増すことになります。
- 例:技術・機能に対する自信、リーダーシップ、意思決定能力、独自のアイデア創造力など。
価値観(Values)
価値観は、個人が仕事やキャリアにおいて何を重視するかという基準です。価値観は、キャリアに対する満足度や幸福感に大きく影響を与えます。たとえば、安定した職場環境を望む人にとって、常に変化するベンチャー企業の環境では満足感が得られないかもしれません。キャリアアンカーは、その人が大切にしている価値観に基づいて、職場や職務におけるフィット感を提供します。
- 例:仕事の安定性、社会的意義、職務と生活の調和、新たな挑戦、など。
例: 「専門・技術能力」アンカーを持つ人の場合
- 動機:高度な専門性を追求し、その分野で一流と認められることに強い動機を持っている。
- コンピタンス:特定の専門知識やスキルを持ち、その分野での問題解決や技術的な改善を得意とする。
- 価値観:専門性の深堀りやスキルの向上に重きを置き、他の業務よりも自分の得意分野に集中することを重要と考える。
構成3要素のまとめ
このように、キャリアアンカーの「動機」「コンピタンス」「価値観」を理解することで、自分に最適なキャリアの道筋が見えてきます。特に、キャリアの転換期においては、この3要素が一致するかを確認することで、満足度の高い職業選択や将来の目標設定が行いやすくなります。
キャリアアンカーの8つの主要なタイプ
シャインは、キャリアアンカーには8つの主要なタイプがあるとしています。
ユーザーのキャリア経験と目指している方向性から、どのキャリアアンカーが自分に当てはまるかを確認することで、今後のキャリア戦略の決定や目標設定がより明確になるかもしれません。
専門・技術能力(Technical/Functional Competence)
特定の技術や専門性を追求し、専門知識やスキルを高めることに喜びを見出すタイプです。スペシャリストとしての成長や深い専門性を追求します。
全般管理能力(General Managerial Competence)
管理職やリーダーシップに興味があり、組織全体の運営や経営に関与することにやりがいを感じるタイプです。意思決定や管理スキルを活かして組織に貢献します。
自立・独立(Autonomy/Independence)
自分のペースで働くことや独立して仕事を進めることを重視するタイプで、他者の指示に左右されずに意思決定できる自由が重要です。
保障・安定(Security/Stability)
安定した収入や仕事、雇用の保証を最も重視するタイプです。リスクを避け、組織やキャリアでの長期的な安定性を求めます。
創造性(Entrepreneurial Creativity)
自分で何かを生み出したり、起業したりすることに情熱を持つタイプです。新しいアイデアを実行に移し、革新を起こすことを望みます。
奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a Cause)
社会貢献や他者のために役立つことを重視するタイプです。特に福祉や教育、環境保護など、社会的意義のある分野で働くことにやりがいを感じます。
純粋な挑戦(Pure Challenge)
難題に立ち向かい、限界に挑戦することに価値を見出すタイプです。困難な状況を克服し、常に新しい挑戦を求めます。
ライフスタイル(Lifestyle)
仕事とプライベートのバランスを大切にするタイプです。生活全体の質や自分らしさを維持することを重視し、仕事が生活の一部であることを重視します。
キャリアアンカーの活用方法
キャリアアンカーを活用することで、自分の価値観や仕事における優先事項を把握し、キャリアの方向性を明確にすることができます。特に、キャリアの転換期や重要な決断をする際に、自分のキャリアアンカーを理解することは、次のような場面で役立ちます。
自己理解の深まり
キャリアアンカーを通じて、自分の価値観や重視するポイントが明確になります。これにより、自分が本当に求める仕事や働き方を理解でき、ミスマッチを減らすことができます。
キャリア選択の指針
転職や昇進、部署異動などの重要な判断において、キャリアアンカーは具体的な方向性を示します。たとえば、「専門・技術能力」が強いキャリアアンカーの場合、専門スキルを伸ばせる職種や業界を選ぶと、満足度が高まります。
モチベーションの維持
自分のキャリアアンカーに基づいた職務に就くことで、仕事への意欲を持続しやすくなります。逆に、自分のアンカーに合わない職務や環境では、やる気を保つのが難しいかもしれません。
長期的なキャリアプランの構築
キャリアアンカーは一生涯にわたり変わりにくい特性があるため、長期的なキャリアプランを考える際の軸として活用できます。たとえば、「自立・独立」のアンカーが強い場合、将来的な独立やフリーランスへの道を考えたキャリア戦略を練ることができます。
リーダーシップやマネジメントにおける応用
部下やチームメンバーのキャリアアンカーを把握することで、適材適所の配置やキャリア支援が可能です。キャリアアンカーが一致する業務やプロジェクトにメンバーを配置すると、メンバーの成長やモチベーション向上に繋がります。
活用方法の具体例
- キャリアカウンセリング:キャリアアンカーの診断テストなどを利用し、自分のアンカーを把握するところから始めます。現在の職務や役割が自分のアンカーに合っているかを確認し、方向性を再考します。
- キャリアプランニングシートの作成:各アンカーに対して「現在の業務がどれくらい満たしているか」「今後どのように充足させたいか」をリストアップすることで、具体的な行動計画を立てやすくなります。
- 自己啓発とスキル向上:たとえば、「全般管理能力」を求めるキャリアアンカーの場合、リーダーシップ研修やマネジメントスキル向上を図ることが有効です。
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