「ISO 9001」というワードを、工場の看板や名刺などで見かけたことがあると思います。
「アイエスオー キュウセンイチ」と読みます。
ISO 9001は「品質マネジメントシステム」に関する国際規格で、全世界で170ヵ国以上、100万以上の組織が認証されています。
それだけ多くの国・組織で認証されているのは、「その組織の商品やサービスが国際基準レベルの品質管理の仕組みで提供されている証明書」として活用できるためです。
一方、ISO 9001に認証されている組織の方にとっては、
- 持っているらしいけど、よくわからん
- これのせいで、仕事が増えているのではないか
と感じている方も多いのではないでしょうか?
今の会社で、本格的に監査業務に取り組む中でISO 9001の本質を考える機会が多々あります。
その知識の棚卸も兼ねて、ここで紹介いたします。
- ISO9001は品質マネジメントシステム構築・運用の要求事項
- ISO9001の成果物は「顧客満足度向上」
- ISO9001認証取得には対内的にもメリット有り
品質マネジメントシステム規格 ISO 9001
ISOは国際標準化機構という組織名
ISOは英語ではInternational Organization for Standardization、日本語では国際標準化機構と言い、スイスのジュネーブに本部を置く非営利法人の名称です。
160以上の団体が加盟しており、日本はJISC(日本標準調査会)が参加しています(2021年時点)。
ISOという略称の由来はギリシャ語の「相等しい」「同一の」を意味する“ISOS” から来ていると言われています
この組織が定めた規格を『ISO規格』と呼び、約2万のISO規格があります。
ISO規格には、「モノ規格」と「マネジメントシステム規格」の2種類があります。
モノ規格
製品や表示そのものに対する規格のことです。
たとえばカードのサイズや非常口など案内板のマーク、ネジの規格などが、モノ規格に当たります。
マネジメントシステム規格
ISO9001(品質)、ISO14001(環境)、ISO27001(情報セキュリティ)、ISO45001(労働安全衛生)が「マネジメントシステム規格」にあたり、企業や工場などの組織活動を管理するための仕組みを定めたものです。
「マネジメントシステム規格」を取得することで、国際基準レベルで管理・運用しているアピールできます。
国内外問わず世界的にアピールポイントとして活用できるため、マーケティング的な側面からも認証取得しています。
ISOが直接、監査・認証業務がするのではなく、ISO認証機関の審査員が実施します。
ISO 9001とは
ISO 9000シリーズは、「品質マネジメントシステムに関する規格の総称」で、ISO 9001が中核となる規格です。
「品質マネジメントシステム」は英語では「Quality Management System」と呼び、頭文字をとってQMS (キューエムエス)と呼ぶこともあります。
現在のISO 9001の前身となる規格が事業所の性格に応じてISO 9001、ISO 9002、ISO 9003に分かれていたこと(2000年にISO 9001に統合)や、現在でも関連の規格が9000番台である物が中心になっているので、まとめてISO 9000シリーズと呼んでいます。
現在では、ISO 9000、ISO 9001、ISO 9004の3つがあります。
認証の対象となる規格はISO 9001です。
ISO 9000 | 品質マネジメントシステムにおける基本や用語を規定 |
ISO 9001 | 品質マネジメントシステムの構築・運用のための要求事項 |
ISO 9002 (廃版) | (2000年にISO 9001に吸収) 製造据え付けおよび付帯サービスにおける品質保証モデル |
ISO 9003 (廃版) | (2000年にISO 9001に吸収) 最終試験及び検査業務のみを認証範囲としたもの |
ISO 9004 | ISO 9001は認証取得の要求事項、ISO 9004は要求事項実現のための参考書的規格 |
ISO 9001の最終成果物は「顧客満足度の向上」
規格名に単に「品質」がつくから、ISO 9001の「最終成果物はモノ・サービスの品質」と捉えていては、ISO 9001の本質を掴むことはできません。
まずはISO 9001の最終成果物は「顧客満足度の向上」ということを認識しましょう。
それを達成するための仕組みとして、各組織は「品質マニュアル」を作成・維持しているのです。
上記を言い換えると、こういうことです。
品質の定義
ISO 9000では、品質 (Quality)を次のように定義しています。
degree to which a set of inherent characteristics of an object fulfils requirements
— ISO 9000:2015 / JIS Q 9000:2015
対象に本来備わっている特性の集まりが,要求事項を満たす程度
要求事項は、次の4項目に分類できます。
- 顧客の要求
- 組織の要求
- 規格の要求
- 法の要求
つまり、こういうことです
そして注意して欲しいことは、ISO 9001はコストと納期については言及していない点です。Quality 品質、Cost コスト、Delivery 納期の頭文字をとって、QCDという言葉が使われています。
ISO 9001の要求事項は、「QCDの中でQuality のみ」です。
Cost, Delivery という単語は一度も使われていません。
「組織がコストと出荷を目標としたときのみ、測定・管理されます」
ISO 9001 の歴史
ISO 9001 に関する年表を示します。
1950年 | MIL-Q-5923(米軍規格)発行 米空軍が調達用に開発した要求事項 |
1959年 | MIL-Q-9858発行 海軍・陸軍を含めた三軍共通の規格 |
1963年 | MIL-Q-9858A発行 計画管理などマネジメント要求を補完 |
1968年 | AQAP 1(NATO軍規格)発行 MIL規格の内容を引き継ぐ |
1979年 | BS 5750(英国規格)発行 英国がAQAPをもとに作成 |
1987年 | ISO 9000s(9000/9001/9002/9003/9004)(初版) 英国の提案で作成 |
1991年 | JIS Z 9900s制定(JIS規格) ISO9000sのJIS化は4年遅れ |
1994年 | ISO 9000s(第二版)発行 |
2000年 | ISO 9000s(第三版)発行 ISO 9002/9003は9001に統合 |
2008年 | ISO 9000/9001(第四版)発行 |
2009年 | ISO 9004(第四版)発行 |
2012年 | ISO共通テキスト(附属書SL)発行 MS規格の基本的な構造・テキストを共通化 |
2015年 | ISO 9000/9001(第五版)発行 |
2018年 | ISO 9004(第五版)発行 |
米国空軍⇒NATO⇒英国⇒ISO 9000という流れで改定され、ISO 9000シリーズは作成・発行されたことがわかります。
注目して欲しい点は、「購入者が粗悪品を購入しないように、購入者自身を守るために制定された要求事項」から出発したということです。
つまり、供給者側の視点ではなく、購入者側の視点から作成されたのです。
この事実からも、ISO 9001の最終成果物が「顧客満足度の向上」であることも納得できますよね。
言ってしまえば、「供給者側の利益、繁栄は関係ない」のです。
ISO 9001の要求事項とは?
ここでは、ISO 9001の要求事項の項目と関連性を解説します。
ISO 9001 は次の11項目からなり、Clause 0~3はISO 9001の概要を説明しています。重要なのは Clause 4~10の7プロセスです。
Clause | 項目 |
0 | 一般 |
1 | 適用範囲 |
2 | 引用規格 |
3 | 用語及び定義 |
4 | 組織の状況 |
5 | リーダーシップ |
6 | 計画 |
7 | 支援 |
8 | 運用 |
9 | パフォーマンス評価 |
10 | 改善 |
Clasue 0.3.2 に、ISO 9001 を理解するうえで重要な内容が書かれています。
それは、PDCAサイクルです。
PDCAサイクルという言葉は、すでに一般的に使用されている言葉なので用語の説明は不要でしょう。
が、念のため簡単な説明
- Plan (計画) – 目的を明確にし、潜在的リスクを特定し、及び改善計画の立案を行なう
- Do (実施) – 計画したことを実行する
- Check (チェック) – 期待通りか検証をする
- Act (処置) – 足りないところを補い、経験から学び改善の機会を提供する
このPDCAという一連のサイクルを「回す」ことでマネジメント品質を高めようという考え方です。
Action ではなくAct であることに注意してください。Actionは間違いです。
Plan, Do, Check は動詞なので、名詞のActionではなく動詞であるActを使うことで整合性が取れます。
PDCAサイクルの説明はこちら。Action or Act の説明も!!
Clasue 0.3.2には、PDCA サイクルの各サイクルに対応する項目、品質マネジメントシステムへのインプット・アウトプットが図式化されています。
ISO 9001の要求事項が身近なPDCAサイクルに落とし込まれることによって、ISO 9001を理解することへのハードルが格段に下がったのではないでしょうか?
ISO 9001認証取得のメリット
ISO 9001認証を取得することは、社外的・社内的にもメリットがあります。
社内的メリットを感じていない方も多いのが現状だと思いますが、ISO 9001 を運用する中で生まれるメリットもあります。
メリットを感じないモヤモヤの原因は、組織のQMSが形骸化してしまっているためであり、ISO 9001 が悪いわけではありません。
という要求に従っていないため、「QMSの形骸化」が生じているのです。
「ISO 9001認証取得のみが目的」になっている場合に、よく見られる現象です。
メリット一覧
取引先拡大
「取引先から ISO 9001取得を要求された」
「官公庁の入札加点や参加条件にISO 9001が必要」
といった外的要因から取得する組織もあります。
「やらされている感」があり、後ろ向きな理由に感じるかもしれませんが、ISO 9001を取得することでビジネスのスタート地点に立てる場合もあります。
「ISO 9001 認証取得自体がメリット」になるケースです。
私が勤めている会社は、ISO 9001認証を保有していない会社とは、一切取引しないルールです
顧客からの信頼を得られる (アピールポイント)
ISO 9001認証を取得するということは、国際的基準レベルで品質管理を行っているという第三者機関の証明になります。
名刺や看板にISO 9001の記載をすることで、組織の品質レベルをアピールできます。
また、ISO 9001 を運用することで品質は継続的改善され、顧客満足度が向上し、顧客からの製品・サービスへの信頼が増します。
作業手順の明確化と改善 (ISO 9001 Clasue 4~10)
品質マネジメントシステムを作る際に、作業手順を整理する必要があります。その過程で、業務が効率化、そして標準化されます。その標準化された作業手順は、維持・管理されます。
常に改善された作業手順に従うことで、従業員は円滑に作業を進めることができます。
責任と権限が明確化 (ISO 9001 Clasue 5.3)
作業手順だけでなく、従業員の「責任と権限」も明確化されます。
各部門の責任者がマネジメントシステムに沿って組織を管理することで、従業員は自身の役割を正しく認識できるようになります。報告系統が明確になるため、不測の事態が起きた時も混乱することはありません。
系統立てた従業員教育の実施 (ISO 9001 Clause 7.2)
従業員が業務を行う中で必要な力量が明確になります。
- 個人:現在の力量と必要な力量を比較することで、重点的に教育を行うポイントが明らかになり、効率的な教育計画を立てることができます。
- 組織:従業員全体の力量マップ一覧を活用することで、組織全体の教育計画、人員計画を立てられるようになります。
まとめ
この記事では、初心者向けにISO 9001 の概要、各項目の関連性、メリットについて説明しまし。今回は初心者の方向けに“ISO9001とは”についてポイントを押さえて解説しました。
最も理解して欲しいことは、ISO 9001 の最終成果物は、
ということです。
ISO 9001 はPDCAサイクルにのっとった継続的改善プロセスによって運用され、その過程の中で対内的メリットも生まれます。
「やらされている、業務上要求されているから取得している」と、ISO 9001を後ろ向きに考えず、「深く理解し、組織にうまく当てはめることで業務の改善につなげるツール」として上手に活用してはどうでしょうか。
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