「エンジニア」という職種の方でも、日本ではそれほど知名度が高くない資格、 チャータード・エンジニアについて説明いたします。
日本では知名度が高くないだけで、歴史は長く、世界中でチャータード・エンジニアは活躍しています。
チャータード・エンジニアは英語ではChartered Engineerと書き、CEngと略されます。
簡単に言うと、イギリスにおける日本の技術士資格に相当します。
チャータード・エンジニアとは?
まずはチャータード・エンジニアについて説明します。
「チャータード」と「エンジニア」の説明をし、最後に「チャータード・エンジニア」の説明をします。
チャータードとは?
「エンジニア」は技術者だと想像がつくと思います。
一方、「チャータード(Chartered)」という単語は普段使わないので、何を意味するのか分からない方も多いと思います。
辞書によると、
Charter = 勅許 (ちょっきょ)
と日本語訳します。そして勅許とは、
勅許 = 天皇・皇帝・国王などの君主が直接発する命令・法令のこと
という意味があります。
つまりイギリスにおいては「国王・女王陛下による命令・勅令」を意味します。
「勅許」という単語を普段使わないので、「Charter」も使わないはずです。
イギリスでは枢密院が法人を審査し、認められた法人は国王・女王陛下から特別許可状(Royal Charter)が授与されます。
「Charter」だけでではなく、「王立の」を意味する「Royal」が頭につくのがポイントです。
Engineer とエンジニア(技術者)の違い
英国では、個人や所属する企業の利益ではなく横断的組織において、社会への貢献、技術のグローバル化に対応でき、技術を通して世界をよりよくする人物をEngineering と定義しています。
日本では、工学的専門性を持っていて、会社間の競争、技術力の向上に寄与する人物がエンジニア(技術者)と呼ばれます。
それには、プログラマー、検査員、技能者も含まれることがあります。
しかし、彼らは海外ではEngineer には分類されず、Technician、Inspectorなどに分類されます。
個人や所属する企業の利益ではなく、技術を通して公共的に貢献し、世界をよりよくすることを求められます。
「チャータード・エンジニア」とは?
改めて、チャータード・エンジニアの意味を考えます。
「チャータード」と「エンジニア」の意味を組み合わせると答えがわかります。
Chartered Engineer = 英国国王・女王陛下が認めた団体に登録されている技術者
です。
ああ、なんて素敵な響き
ちなみに、Engineering Council (エンジニアリング評議会)は、次の5つのコンピテンシーを定義し、エンジニアはこれらのコンピテンシーを持つことを要求しています。
* Engineering Councilは、イギリスの技術者登録機関。詳細は次に説明します。
Each registration title requires demonstrations of competence in five broad areas:
A. Knowledge and understanding
B. Design, development and solving engineering problems
C. Responsibility, management and leadership
D. Communication and interpersonal skills
E. Professional commitment
更に、チャータード・エンジニアには以下の能力を有することを求めています。
- イノベーション・創造性・変化を通じて、新・既存テクノロジーを使用し、エンジニアリング的課題に対して適切な解決法を開発する
- 新しいテクノロジーを開発および適用し、高度な設計と設計方法を促進する
- 新しくより効率的な生産技術・マーケティング・建設の概念を導入する
- 新しいエンジニアリングサービスと管理方法を開拓する
- 技術的および商業的リーダーシップを有する
- 効果的な対人スキルを有する
Chartered Engineers are characterised by their ability to develop appropriate solutions to engineering problems, using new or existing technologies, through innovation, creativity and change. They might develop and apply new technologies, promote advanced designs and design methods, introduce new and more efficient production techniques, marketing and construction concepts, or pioneer new engineering services and management methods. Chartered Engineers are variously engaged in technical and commercial leadership and possess effective interpersonal skills.
https://www.engc.org.uk/
CEngの技術分野は39分野
チャータード・エンジニアの技術分野は、次の39分野に分けられています。
私は、#22のIMechE(英国技術士学会)に登録しています
この39団体が「それぞれの分野の技術者協会」であり、Royal Charterを授与されています。
各技術者協会にエンジニアとして登録申請し、認められてるとチャータード・エンジニアと名乗れるようになります。
Engineering Council (エンジニアリング評議会) とは
Engineering Council(EngC)は、専門性の垣根を越え、技術者登録のための統一基準と登録手順を規定、保持している機関です。
EngCに技術者が登録することを、「プロフェッショナル登録」と呼びます。
1964年に、Council of Engineering Institutions (CEI)として設立され、1965年にChartered Institutionとして認められました。
そのころのイギリスでは、専門化が進み多数の技術者協会が設立され、独自に技術者の登録業務を担っていました。
技術者の専門性によらず、登録のための統一した教育と訓練の基準を設定する要請があり、CEIが設立されました。
エンジニアリングを促進し、統一された専門基準を確立することを目的で、1980年に王立委員会が招集されました。
「公共の利益のために工学の教育を進め、科学と実践を促進し、それによって産業と商業を促進する」機関として、1981年にCEIはEngineering Council(EngC)に改変されました。
イギリスのすべての技術者協会の監督を行い、それらの技術者協会に属する技術者の登録機関として機能しています。
また、プロフェッショナルとしての能力と倫理を定めた:UK Standard for Professional Engineering Competence (UK-SPEC)を設定し、技術者のレベルの維持と国際化を推進しています。
EngCと各技術者協会の関係はこのように表せます
プロフェッショナル登録の称号は4種類
EngCが規定している称号は、4種類あります。
- Chartered Engineer (CEng)
- Incorporated Engineer (IEng)
- Engineering Technician (Eng Tech)
- Information Communication Technology Technician (ICT Tech)
称号ごとの対象者は次の通りです。
Chartered Engineer (CEng)
大学院卒業者もしくは同等の知識を有する人が対象です。
チャータードエンジニアに認められる人材は、エンジニアリングに関する問題解決に携わり、イノベーション、創造性、変化によって実証できる人です。
Incorporated Engineer (IEng)
学部卒業者で、一般的なエンジニアリング業務を遂行できる技術者が対象です。
効率よく、テクノロジー活用の維持と管理ができる人です。
Engineering Technician (EngTech)
NVQ/SVQ Level 3 以上のテクニシャンが対象です。
NVQ (National Vocational Qualifications)は「全国職業資格」と訳されます。
また、スコットランドではSVQ (Scottish Vocational Qualifications)は「スコットランド職業資格」が適用されます。
Information Communication Technology Technician (ICT Tech)
ICT Advanced Apprenticeship を修了した人、または他のICT 実務者資格 Level 3 (もしくはSCQF Level 6)を持ち、適切な実務経験を持つ人です。
SCQF = Scottish Credit and Qualifications Framework,スコットランド単位・資格枠組みで、12の到達度水準として設定されています。
技術者協会会員グレードは規定されている
各技術者協会は、登録されている技術者のレベルによってグレード分けしています。
このグレード分けを”Membership Grades”と呼び、次のようなグレードがあります。
”( )”内のワードを、各技術者協会の略称の前につけることによって、その技術者の(グレード) x (専門性) を判断できます。
Associate Member (AM)
学位を持ち、エンジニアリング評議会への技術者登録のために従事している技術者が相当します。
Member (M)
すでにエンジニアリング評議会への技術者登録済みの技術者です。
Fellow (F))
フェローはMemberの中でも、並外れた貢献と取り組みをなしたものに授けられます。
メンバーシップのカテゴリーの中で最も最上位に位置します。
Affiliate / Student Member など
学生が相当し、呼び方は技術者協会によって異なります。
年会費は無料であることが多いです。
名刺や署名への表記
エンジニアリング評議会への登録時に、登録称号が決まります。
そして、各技術者協会への登録時に、会員グレードが決まります。
この関係はこのようになります!
名刺や署名への表記は、この組み合わせになります。つまり、
であらわされます。
私の場合、こんな条件です
称号: Chartered Engineer ⇒ CEng
グレード: Member ⇒ M
技術者協会名: 英国機械学会 ⇒ IMechE
なので、私の名刺への表記は次のようになります。
チャータード・エンジニアの歴史
プロフェッショナルとしてのエンジニアの役割は、1716年に制定されたRoyal Engineersと呼ばれる軍隊の工兵 (王立工兵連隊) が担っていました。
18世紀半ばから、イギリスで産業革命がはじまり、社会の発展とともに社会インフラ整備など非軍事的な分野を担うエンジニアが求められるようになってきました。
そこで、1818年に任意団体として最初のプロフェッショナル・エンジニアの団体Institution of Civil Engineers(ICE)が設立され、1828年に国王の勅許により法人化(Chartered Institution)されました。
ICEは、世界で一番最初のエンジニア団体と言われています。
この時代の、”Civil Engineers”は「民生(Civil)のためのエンジニア」という意味で、現在の「Civil=土木」とは違った意味を持っていました。
つまり、当時のICEには土木技術者だけでなく、機械、化学など、専門性に関係なくすべての技術者が参加していました。
また、団体名に”Civil”(民生のための)という言葉が使われているように、公衆の利益のために設立されたことがわかります。
そして、科学技術の発展によりエンジニアリングを、より専門化する必要が出てきました。
1847年に鉄道や灯台など土木以外の部分を専門とするInstitution of Mechanical Engineers (IMechE) が設立され、土木とそれ以外のエンジニアリング分野が分離されました。「土木」は当初のままICEに含まれ、現在も継続しています。
さらに時代を経て、IMechEからさらに電気・情報通信(1921年)、化学(1922年)などが分離されました。
現在、Chartered professional Institutionは39分野にまで細分化され、会員数は229,000万人にのぼります。
プロフェッショナル登録のメリット、たくさんあります!!
登録前にはメリットがわかりにくいと思います。
私自身は、
ネームバリューがあるエンジニア称号だが、英国以外在住者での登録は難しいため希少価値がある。
名刺に書けたらカッコイイな~
という単純な理由からプロフェッショナル登録をしました。
登録が完了した立場から、登録のメリットを考えてみました。
登録の全手順をまとめましたので、是非読んでみてください!!
まとめ
この記事では、英国技術士 チャータード・エンジニア (CEng)の定義、技術範囲、歴史について説明しました。
日本人にとっては、あまり馴染みがない資格ですが、最も歴史が長い技術士資格であり、世界での知名度は非常に高いです。
国際的に活躍をしている、目指している技術者は、ぜひ取得を目指してください。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] […]