知的財産権(知的財産基本法)
人間の幅広い知的創造活動の成果について、一定期間の独占権を与えるようにしたのが知的財産権制度です。知的財産権は、様々な法律で保護されています。
産業財産権
特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つをまとめて産業財産権と呼んでいます。産業財産権制度は、新しい技術、新しいデザイン、ネーミングやロゴマークなどについて独占権を与え、模倣防止のために保護し、研究開発へのインセンティブを付与したり、取引上の信用を維持したりすることによって、産業の発展を図ることを目的にしています。
特許権(特許法)
特許権は発明を保護するための権利です。発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のもの」をいいます。
発明には「物」「方法」「物の生産方法」の3つのタイプがあります。
特許権を取得すると、自身の特許発明の実施を独占できると共に、第三者が無断でその特許発明を実施していればそれを排除することができます。期間の終期は、原則的には「特許出願の日から20年」です。医薬品・農薬などに係る特許発明の場合、5年を限度として延長が認められます。ただし、延長が認められるのは最長でも、特許発明の実施をすることができなかった期間までです。
実用新案権(実用新案法)
物品の形状、構造または組み合わせに係る考案を保護するための権利です。
考案とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」をいい、発明と違い高度であることを必要としません。存続期間は「出願から10年」です。
意匠権(意匠法)
物、建築物、画像(以下、「物等」)のデザインに対して与えられる独占排他権です。
意匠権として保護されるのは、物等の全体のデザインの他、部分的に特徴のあるデザイン等です。
意匠権の効力は、登録された意匠と同一又は類似の範囲まで及びますので、第三者によるデザインの模倣品や類似品の販売等を排除することができます。
存続期間は意匠登録出願の日から最長25年です。
商標権(商標法)
商標権とは、商品又はサービスについて使用する商標に対して与えられる独占排他権で、その効力は同一の商標・指定商品等だけでなく、類似する範囲にも及びます。商標として保護されるのは、文字、図形、記号の他、立体的形状や音等も含まれます。
2015年の改正によって、次のタイプの商標も登録可能となりました。
動き商標 | 文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標 (例えば、テレビやコンピューター画面等に映し出される変化する文字や図形など) |
ホログラム商標 | 文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標 (見る角度によって変化して見える文字や図形など) |
色彩のみからなる商標 | 単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標(これまでの図形等と色彩が結合したものではない商標) (例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩など) |
音商標 | 音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標 (例えば、CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音など) |
位置商標 | 文字や図形等の標章を商品等に付す位置が特定される商標 |
権利の存続期間は10年ですが、存続期間は申請により更新可能です。
著作権(著作権法)
著作権は、作品を創作した者が有する権利のことです。また、作品がどう使われるか決めることができる権利でもあります。作者の思想や感情が表現された文芸・学術・美術・音楽などを著作物といい、創作した者を著作者といいます。著作権は著作物の創作と同時に発生し、原則的保護期間は著作者の死後70年です。
先使用権制度
「他人の特許出願よりも前から実施していたときは、自らの実施を無償で継続できる権利」です。ただし、日本での先使用権の効力は、外国には及びません。
国際出願制度
特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願とは、ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度です。ただし注意点があります。
PCT国際出願は、あくまで国際的な「出願」手続であるため、国際出願の発明が、特許を取得したい国のそれぞれで特許として認められるかどうかは、最終的には各国特許庁の実体的な審査に委ねられています。
情報の保護
特定秘密保護法
日本の安全保障に関する情報のうち、特に秘匿することが必要であるものを「特定秘密」として指定し、取扱者の適性評価の実施や漏えいした場合の罰則などを定めた法律です。
対象は次の4分野で、有効期限は上限5年で更新可能、最長60年の例外もあります。
- 防衛
- 外交
- 特定有害活動(スパイ活動)の防止
- テロリズムの防止
不正競争防止法
「不正競争によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者に対し、 不正競争の防止・予防請求権を付与することにより、不正競争の防止を図るとともに、その営業上の利益を侵害された者の損害賠償、差止請求、刑事罰などを整備することによって、事業者間の公正な競争を確保すること」を目的としています。
「不正競争」は大きく10の行為に分類することができます。具体的な内容を解説します。
周知表示混同惹起行為 | 広く認識されている、他人の商品等と同一または類似の表示を使い、その他人の商品等との混同を生じさせる行為。 |
著名表示冒用行為 | 他人の著名な商品等の表示を、自己の商品等の表示に使う行為 |
形態模倣商品の提供行為 | 他人の商品の形態を模倣し、これを提供する行為 |
営業秘密の侵害 | 窃盗など不正の手段によって営業秘密を取得して、これを自ら使用または第三者に開示する行為 |
限定提供データの不正取得等 (刑事罰無し) | 特定の者に対してのみ提供されているデータを、窃盗や不正アクセスなどの不正な手段で入手し、自ら使用または第三者に開示する行為 |
技術的制限手段無効化装置等の提供行為 | 制限されているコンテンツの視聴・記録や、プログラムの実行を可能にする装置・プログラム・役務の提供。 ・海賊版のゲームができるようにする改造 ・セーブデータを改ざんする ・衛星放送の暗号を無効化するプログラム |
ドメイン名の不正取得等の行為 | 不正の利益を得る、あるいは他人に損害を加える目的(図利加害目的)で、他人の商品等の表示と同一または類似するドメイン名を使用する権利を取得する行為 |
誤認惹起行為 | 原産地や品質、内容等を誤認させるような表示をする行為 |
信用毀損行為(刑事罰無し) | 競争相手にあたる他人の信用を害する、虚偽の事実を告知・流布する行為 |
代理人等の商標冒用行為(刑事罰無し) | パリ条約の同盟国等おいて権利を持つ者の代理人が、正当な理由なく、権利を有する者の承諾も得ず、当該商標を使用すること |
肖像権
同意なしに、個人を特定されるような肖像(容貌・姿)を撮影・公表されない権利
パブリシティ権
氏名・肖像などによる顧客誘引力を利用する権利
プライバシー権
私生活を公開されない権利
個人情報保護法
個人情報保護法は、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする法律です。主に、個人情報等を取り扱う場合のルールについて規定しています。
個人情報
個人情報とは、
「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などによって特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合することができ、それによって特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)、または個人識別符号が含まれるもの」のことです。
個人識別符号とは、特定の個人を識別することができるもので、例として次の2点があります。
①指紋、DNA、顔の骨格などの身体の特徴データ
②マイナンバー、パスポートや運転免許証の番号といった、個々人に対して割り当てられる公的な番号
匿名加工情報
匿名加工情報とは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、当該個人情報を復元できないようにした情報のことをいいます。
個人情報取扱事業者は個人情報保護委員会規則で定める基準に従って加工しなければなりません。「情報」は次の3つに大別できます。
1.個人情報を含むデータ(パーソナルデータ)
2. 匿名加工されたデータ
3.個人に関わらないデータ (IoT端末からのセンシングデータ等)
匿名加工情報は、一定のルールの下で、本人同意を得ることなく、事業者間におけるデータ取引やデータ連携を含むパーソナルデータの利活用を促進することを目的に個人情報保護法の改正により導入されました。
個人情報の保護措置
2023年4月施行から、これまで別々に定められていた民間事業者、行政機関、独立行政法人等、地方公共団体の機関及び地方独立行政法人のルールを集約・一体化するため、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法が個人情報保護法に統合されるとともに、地方公共団体の個人情報保護制度も個人情報保護法に統合され、個人情報保護に関する全国的な共通ルールが定められました。
個人情報保護法の基本ルールは次の4点です。
- 取得・利用 : 勝手に使わない
- 保管・管理;なくさない、漏らさない
- 提供:勝手に第三者に渡さない
- 開示請求などへの対応:本人からの開示請求、苦情に適切・迅速に対応
オプトイン/オプトアウト
オプトイン:個人情報(個人データ)の本人から「私の個人データを第三者に提供してよい」という同意を得て、個人データを第三者に提供する
オプトアウト:個人情報(個人データ)の本人から「私の個人データを第三者に提供してよい」という同意はとらないが、本人が「私の個人データの第三者提供を止めてください」と求めたときは、個人データの第三者提供をやめる、という形で、個人データを第三者に提供する
個人情報の活用・流通
2017年施行の改正個人情報保護法は、時代に即した個人情報の活用・流通を、情報漏洩リスクとのバランスをとりながら促進する目的で改正されました。
個人情報の漏えい時対応
個人情報取扱事業者は、漏洩など事案が発覚した場合、事実関係及び再発防止策などについて、個人情報保護委員会などに対して、速やかに報告するよう努めること、とされています。
「個人情報取扱事業者」とは、個人情報保護法第2条第5項において、「個人情報データベースなどを事業の用に供している者」と定義されています。
以前の個人情報保護法では、事業のために使用している個人情報データベースに含まれる個人情報の数が5,000を超えない場合は、「個人情報取扱事業者」に該当しないとされていましたが、数の制限が削除され、個人情報を取り扱う事業者すべてが「個人情報取扱事業者」に該当します。
独占禁止法
独占禁止法は、正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。自由経済社会において、企業が守らなければいけないルールを定め、公正かつ自由な競争を妨げる行為を規制しています。
私的独占
企業が単独で、または他の企業と手を組み、競争相手を市場から締め出したり、新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為のことです。私的独占には,「排除型私的独占」と「支配型私的独占」とがあります。前者は,事業者が単独又は他の事業者と共同して,不当な低価格販売などの手段を用いて,競争相手を市場から排除したり,新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為です。後者は,事業者が単独又は他の事業者と共同して,株式取得などにより,他の事業者の事業活動に制約を与えて,市場を支配しようとする行為です。
不当な取引制限
不当な取引制限に該当する行為には,「カルテル」と「入札談合」があります。「カルテル」は,事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い,本来,各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為です。「入札談合」は,国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し,事前に,受注事業者や受注金額などを決めてしまう行為です。
不公正な取引方法
不公正な取引方法は,「自由な競争が制限されるおそれがあること」,「競争手段が公正とはいえないこと」,「自由な競争の基盤を侵害するおそれがあること」といった観点から,公正な競争を阻害するおそれがある場合に禁止されます。一般指定で挙げられた不公正な取引方法には,取引拒絶,排他条件付取引,拘束条件付取引,再販売価格維持行為,ぎまん的顧客誘引,不当廉売などがあります。また,特殊指定は,現在,大規模小売業者が行う不公正な取引方法,特定荷主が行う不公正な取引方法,及び新聞業の3つについて指定されています。
下請法
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は,親事業者による下請事業者に対する優越的地 位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。例えば,下請事業者に責任がないのに,親事業者が発注後に下請代金の額を減じることは禁じられています。たとえ当事者間で協賛金,値引き,歩引き等の名目で発注後に一定金 額を下請代金から差し引くことで合意している場合であっても,下請法違反になります。また,親事業者の社内検査などの事務手続の遅れや,下請事業者から請求書が提出されてい ないことを理由に,下請代金の支払日を遅らせることも認められません。
独占禁止法とコンプライアンス
経済取引における公正な競争を一層促進させるためには,独占禁止法の厳正な執行を行うとともに,企業等におけるコンプライアンスの向上が重要です。
入札談合
国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札の際、入札に参加する企業同士が事前に相談して、受注する企業や金額などを決めて、競争をやめてしまうことを「入札談合」といいます。
知的財産戦略
知的財産戦略(知財戦略)とは、知的財産権を経営戦略において定義するところからはじめ、知的財産権をどのように取得して、事業戦略にどのように活かし、企業経営にいかに貢献させるのか、を明確にすることです。
知的財産の創造
知的創造サイクルは、知的財産の創造から開始されます。独創的かつ革新的な研究開発成果を生み出し、それを社会に還元するメカニズムを抜きにして「知的財産立国」は実現しないため、「知的財産の創造」プロセスが肝要と言えます。特に、人材育成に大きく関与する、大学・公的研究機関等の役割は極めて大きいものです。
知的財産の保護
知的財産を保護するのが、知的財産権です。 音楽、映画、絵画などの著作物を保護する著作権、発明を保護する特許権、考案を保護する実用新案権、デザインを保護する意匠権、商品やサービスなどを区別するためのマークを保護する商標権などがあります。
知的財産の活用
知的財産の活用方法として代表的なのが、特許権・実用新案権・意匠権・商標権等の取得です。権利化することで、登録が認められたものについては独占的に使用すること法律で認められ、第三者による無断模倣等に対して権利行使をすることができるようになります。
標準化戦略
標準化戦略とは、自社の製品に含まれる技術のうち、どの部分を意図をもって他社にも開放(オープン)し、どの部分を自社独占(クローズド)とするかを策定して、ビジネスにつなげることを指します。
デジュール標準
デジュール標準は、標準化機関における合意を経て制定される公的な標準です。 例えば、ISO(国際規格)、EN(EU域内規格)、JIS(日本の国家規格)などがあります。
フォーラム標準
フォーラム標準は、先端技術分野において、複数の企業などが集まり、フォーラムと呼ばれる組織が結成され、その組織が業界の実質的な標準をつくるものです。
デファクト標準
デファクト標準は、市場で多くの人に受け入れられることにより標準になったものをいいます。
ライセンス(技術実施許諾)
特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)とは、特許権を取得した発明について、第三者による実施(使用・譲渡など)を許諾する契約です。
許諾を受ける側(ライセンシー)は、特許発明を活用して新商品を製造・販売できるようになる一方で、特許権者(ライセンサー)はライセンス料による収入を得られます。