経済性工学(EE)
経済性工学(Engineering Economics)は、技術や工学的プロジェクトに関連する経済的な側面を分析し、最適な意思決定を行うための学問分野です。技術的な課題とともに、コストや価値、資源配分、投資対効果などを評価することが目的です。この分野には、原価工学、価値工学、およびエンジニアリング・エコノミーが含まれ、各分野が異なる視点から経済性に関する課題を分析します。
原価工学(Cost Engineering)
原価工学は、プロジェクトや製品のライフサイクルにおけるコストの見積もり、管理、削減を目的とした学問分野です。これにより、プロジェクトの収益性や効率性を高めることが目指されます。
主な内容
- コスト見積もり: プロジェクトや製品の開発段階から、コストの見積もりを行う。これには、資材費、人件費、機器費などが含まれます。
- コスト管理: 予算内でプロジェクトを完了させるために、コストを効果的に管理する方法を探る。
- コスト削減: コストの削減策や効率化手法を導入し、プロジェクトの収益性を向上させる。
活用事例
- 建設プロジェクトにおける材料費や工期のコスト管理
- 製造業における製造コストの最小化と効率化
メリット
- プロジェクトのコスト効率が向上し、収益性が高まる。
- プロジェクトの全体コストを把握できるため、経営判断がしやすくなる。
注意点
- コスト削減のみにフォーカスすると、品質やパフォーマンスが犠牲になるリスクがある。
価値工学(Value Engineering: VE)
価値工学は、製品やプロジェクトの価値を最適化するために、コストと機能のバランスを追求する手法です。価値とは、提供する機能に対するコストの割合として定義され、同じ機能を低コストで提供できる方法を探ることが目的です。
主な内容
- 価値の定義: 価値を「顧客が得る利益や機能」と「それを実現するコスト」の比率として捉える。
- 機能分析: プロジェクトや製品の各機能を分析し、その機能がコストに見合ったものかを評価する。
- 価値向上策: 不必要なコストを排除し、同じまたはより良い機能を提供できる手段を見つける。
活用事例
- 製品設計において、機能を維持しながらコストを削減する設計の見直し
- 建築プロジェクトで、機能を犠牲にせずに材料や工法を変更し、コストを削減
メリット
- コスト削減と機能向上の両立が可能。
- 顧客の価値を高め、製品やプロジェクトの競争力が向上する。
注意点
- 機能の削減が顧客満足度の低下につながるリスクがあるため、価値とコストのバランスを慎重に評価する必要がある。
エンジニアリング・エコノミー(Engineering Economy)
エンジニアリング・エコノミーは、技術的な決定を行う際に経済的要因を分析し、最適な選択肢を見つけるための手法です。投資計画やプロジェクト選定において、利益、コスト、リスク、時間価値などを総合的に評価します。
主な内容
- 投資対効果分析: 資本投資がどれだけの利益を生むかを分析する。
- 時間価値の概念: 資金の時間価値を考慮し、将来のコストや収益を割り引いて評価する。
- 経済的な評価基準: 正味現在価値(NPV)、内部収益率(IRR)、回収期間などを用いて経済的な意思決定を行う。
活用事例
- 工場の設備投資: 新しい設備を導入する際、その設備が長期的にどれだけの利益を生むかを計算し、導入の可否を判断する。
- プロジェクト選定: 複数のプロジェクト案から、最も経済的に有利なものを選定する。
メリット
- 長期的な経済的視点での意思決定ができ、資源配分が最適化される。
- 投資のリスクやリターンを事前に評価できるため、より確実な意思決定が可能になる。
注意点
- 長期的な予測が必要なため、予測の精度が低い場合、意思決定が誤る可能性がある。
- 経済的要因だけでなく、環境や社会的要因も考慮する必要がある場合がある。
まとめ
- 原価工学は、プロジェクトや製品のコスト削減と管理に焦点を当て、予算内で効率的に進めることを目的としています。
- 価値工学は、コストと機能のバランスを最適化し、同じまたはより良い機能を提供するためにコストを削減する手法です。
- エンジニアリング・エコノミーは、投資やプロジェクト選定において経済的要素を評価し、最適な意思決定を行うための手法です。
それぞれの手法は、技術プロジェクトの経済的側面を分析するために有効であり、これらを組み合わせることで、より効率的で効果的な経営やプロジェクト管理が可能になります。
経済性の比較の原則
経済性の有利さを判断するための比較の原則は次の2つです。
第1原則:比較の目的と対象(案)を明確にする
第2原則:比較の対象間で、収益の違い、費用の違いをとらえる (総収益と総費用)。
この2つの原則は、問題の規模の大小、計画期間の長短を問わず、重要な役割を果たす基本的な原則です。
経済性の比較の原則の例題
目的を「夕方5時に東京の本社を出発して、朝10時に大阪の支店を訪問する」、という例で考えてみます。
まず、第1原則です。目的は前記した通りで、対象案には飛行機、、夜行バスがあります。
次に、第2原則を表にして考えます。
対象案 | 飛行機 | 夜行バス |
---|---|---|
費用 | ・チケット代 ・空港までの運賃 ・空港からホテルまでの運賃 ・ホテル代 (朝食付きプラン) ・夕食代 ・ホテルから支店までの移動費 | ・チケット代 ・バス停までの運賃 ・夕食代 ・朝食代 ・バス停から支店までの運賃 |
単に、チケット代のみを比較するのではなく、考え得るすべての費用を考慮する必要があります。
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