奥が深すぎる、技術士試験に求められる”リーダーシップ”の定義【コンピテンシー】

技術士として必要なコンピテンシーとして、”リーダーシップ”が求められています。
複数の技術士試験用参考書や、勉強指南サイトでは、

リーダーシップというと、メンバーをグイグイ引っ張るイメージではないでしょうか。
しかし、技術士に求められているリーダーシップは、関係者の調整をするリーダーです。

という解説をよく目にします。
結論から言うと、この解説は間違いです。

その理由は、この記事を読めばわかりますよー

こんな方に読んで欲しい!!
  1. 技術士試験が求めるリーダーシップ像を知りたい
  2. リーダーシップの種類を知りたい
目次

日本技術士会によるリーダーシップの定義

技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)として、リーダーシップは次のように定義されています。

  1. 業務遂行にあたり,明確なデザインと現場感覚を持ち,多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
  2. 海外における業務に携わる際は,多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに,プロジェクト 等の事業や業務の遂行に努めること。
日本技術士会

率直に言うと、このリーダーシップの定義を読んでも全くピンときませんでした。

こんな疑問が湧きました

  • ことに努めること」と、「こと」が連続で使われているなぁ
  • 「努めること」が内容をボンヤリとさせてるなぁ
  • 「、」をどのように理解すればよいのかわからないなぁ
    1.「明確なデザインと現場感覚を持つこと」と「利害調整」が並列で、二つの「能力」を意味しているのか
    2.「明確なデザインと現場感覚を発揮して(能力)、利害調整を行う(アウトプット)」という、「能力」と「アウトプット」を意味しているのか
  • PMP (Professional Management Institute)と比べると、説明が簡潔すぎる

日本技術士会が期待しているリーダーシップ能力を、明確には読み取れませんでした。

PMPにおけるリーダーシップの定義

では、他の資格におけるリーダーシップの定義を確認しましょう。

ここでは、PMBOKの定義について説明します。

PMBOKとは

PMBOKの正式名称は、Project Management Body of Knowledge で、その頭文字をとっています。
和訳すると、「プロジェクトマネジメントの知識体系」です。
アメリカのPMI (Project Management Institute)から発行され、プロジェクト管理に関するノウハウや手法を体系的にまとめたものです。

経営工学部門のサービスマネジメント、総合技術管理部門を受験される方にも有用な参考書です。

PMBOKでのリーダーシップスキルの定義

PMBOKでは、次のように定義されています。

The knowledge, skills, and behaviors needed to guide, motivate, and direct a team, to help an organization achieve its business goals.

チームを統率してモチベーションを与え、組織の事業目的を達成する上で必要な知識、スキルおよび振舞い

PMBOK 第6版

概念的な説明だと感じるかもしれません。
しかし、日本技術士会の説明よりも、言葉の定義としての形を成しています。

さらに、補足説明 (Para.3.4.4) があります。

リーダーシップ・スキルとは、チームを統率し、モチベーションを与えながら導いていく能力を言う。こうしたスキルには、交渉力、レジリエンス(精神的回復力)、コミュニケーション力、問題解決力、クリティカル・シンキング、および人間関係のスキルなど、不可欠な能力の発揮がある。その一例として次を挙げる。

PMBOK第6版

◆ Being a visionary (e.g., help to describe the products, goals, and objectives of the project; able to dream and translate those dreams for others);

◆ Being optimistic and positive;

◆ Being collaborative;

◆ Managing relationships and conflict by:

     ■Building trust;

     ■Satisfying concerns;

     ■Seeking consensus;

     ■Balancing competing and opposing goals;

     ■Applying persuasion, negotiation, compromise, and conflict resolution skills;

     ■Developing and nurturing personal and professional networks;

     ■Taking a long-term view that relationships are just as important as the project; and

     ■Continuously developing and applying political acumen.

◆ Communicating by:

     ■Spending sufficient time communicating (research shows that top project managers spend about 90% of their time on a project in communicating);

     ■Managing expectations;

     ■Accepting feedback graciously;

     ■Giving feedback constructively; and

     ■Asking and listening.

◆ Being respectful (helping others retain their autonomy), courteous, friendly, kind, honest, trustworthy, loyal, and ethical;

◆ Exhibiting integrity and being culturally sensitive, courageous, a problem solver, and decisive;

◆ Giving credit to others where due;

◆ Being a life-long learner who is results- and action-oriented;

Focusing on the important things, including:

     ■Continuously prioritizing work by reviewing and adjusting as necessary;

     ■Finding and using a prioritization method that works for them and the project;

     ■Differentiating high-level strategic priorities, especially those related to critical success factors for the project;

     ■Maintaining vigilance on primary project constraints;

     ■Remaining flexible on tactical priorities; and

     ■Being able to sift through massive amounts of information to obtain the most important information.

◆ Having a holistic and systemic view of the project, taking into account internal and external factors equally;

◆ Being able to apply critical thinking (e.g., application of analytical methods to reach decisions) and identify himor herself as a change agent.

◆ Being able to build effective teams, be service-oriented, and have fun and share humor effectively with team members.

いかがでしょうか?
求められている「リーダーシップの資質とスキル」が明確ではないでしょうか。

これら以外にも、チームを統率し、モチベーションを与えながら導いていく能力、すべてがリーダーシップ能力です。
ちなみに、「日本技術士会が定義する「利害調整」」も、「関係やコンフリクトをマネジメントすること」として、スキルに含まれています。

日本技術士会とPMBOKの比較

日本技術士会のリーダーシップの定義は限定的過ぎです。
一方、PMBOKの定義は明確です。

また、「海外業務遂行」もリーダーシップ能力に含まれることは、「日本ならでは」と感じました。
「日本語・日本文化オンリーでの業務体制が当たり前」、「日本の産業はガラパゴス文化で成り立っている」と、日本技術士会は自覚しているから明記しているんでしょうね。
わざわざ明記しなければならないほど、国際化からかけ離れた国なのか、、、

多国籍チームが当たり前の文化だったら、わざわざ「海外」なんて書きませんよね~

リーダーシップの種類

次に、リーダーシップの種類について説明します。
複数のリーダーシップ分類方法が提唱されています。

代表的な分類方法

  • PM理論
  • ダニエル・ゴールマンによる6種類のリーダーシップスタイル
  • クルト・レヴィンの3種類のリーダーシップ型

ここでは、一例として「ダニエル・ゴールマンによる6種類のリーダーシップスタイル」について説明します。

6種類のリーダーシップスタイル

ダニエル・ゴールマンさんが提唱した6種類のスタイル

  • ビジョン型リーダーシップ
  • コーチ型リーダーシップ
  • 関係重視型リーダーシップ
  • 民主型リーダーシップ
  • 実力型リーダーシップ
  • 権威型リーダーシップ

ビジョン型リーダーシップ

人を巻き込む力があり、信念や価値観を持ち、メンバーのやる気を鼓舞するスタイルです。
リーダーが掲げるビジョンをチームメンバーが共有し、一体となって求めます。メンバーの組織への帰属意識も高まります。
組織の改革期や急成長期に有効です。

コーチ型リーダーシップ

メンバーのやり方を尊重し、メンバーの特徴(強み、弱み、モチベーション)や性格を活かすスタイルです。
メンバーをコーチングし、個々の成長を促すことで、組織全体の成長とつなげ、最終的にプロジェクトの成功へと導きます。

専門性が高く、かつ、主体性があるメンバーがそろっている組織では効果的です。

関係重視型リーダーシップ

関係者と強い信頼関係を築き、調整力に長けたスタイルです。
人間関係を良好に保つことを重要視し、メンバーが仕事を進めやすくなるように調整します。
利害関係を整理し、協調して物事を進めていく場面では有効で、長期プロジェクトでは友好的です。
ただし、成果に向けて組織を動かす力が欠けます。

民主型リーダーシップ

参加型とも呼ばれ、メンバーと同じ目線にたち、友好的な関係を保つスタイルです。
意思決定にメンバーの意見を考慮し、メンバーと合意形成をしながら仕事を進めます。
有能で、主体性があるメンバーがそろっている組織では効果的です。

実力型リーダーシップ

ペースセッター型とも呼ばれ、リーダー自らがプレイヤーとして高いパフォーマンススタイルを示し、組織を引っ張るスタイルです。
リーダーが手本となって高い基準を示し、メンバーのパフォーマンス向上を促します。
リーダー、メンバー、両方の能力が高い場合に効果的です。

権威型リーダーシップ

強制型とも呼ばれ、強制的に作業を指示し、そのままメンバーが実行することを期待するスタイルです。
業務効率が高くなり成果が出やすく、未熟なメンバーもコントロールしやすいというメリットがあります。

しかし、部下の判断力が育たなかったり、離職率が高くなることがあります。
迅速な意思決定・対応が求められる緊急事態や、インシデント対応には効果的です。

「技術士試験村」で言われる“グイグイ”リーダーシップ

では、冒頭に書いた、

リーダーシップというと、メンバーをグイグイ引っ張るイメージではないでしょうか。
しかし、技術士に求められているリーダーシップは、関係者の調整をするリーダーです。

について説明します。
ここまで読んだ方はわかると思いますが、

「メンバーをグイグイ引っ張るイメージ」⇒リーダーシップタイプの分類
「関係者の調整をする」⇒リーダーシップスキルのひとつ

「リーダーシップの分類」と、「スキル」という、異なる分野の事柄を比べることが間違っているのです。

どのタイプのリーダーシップであっても、必ず関係者調整を行います
周りを引っ張って調整し、プロジェクトを前に進めることは何も間違っていません。
日本技術士会も、権威型リーダーシップを否定していません

間違った解説では、権威型(グイグイ系)リーダーシップが否定されています。
不思議でなりません。

極端な例

(ケース例)
あと10分で結論を出さなければ、容器内の圧力が限界を超え、容器が爆発する可能性がある。

[関係重視型リーダーシップ、民主型リーダーシップ]
意見を集約してまとめている間に時間切れになってしまい、大災害を招いてしまった。

[権威型リーダーシップ]
独断で各フェーズの担当者を決め、担当者から受け取った対策を技術的に統合し、迅速に対策を施すことで爆発を防いだ

このケースの場合、権威型(“グイグイ”)リーダーシップの方が機能しています。口頭試験でも通用する内容でしょう。

大事なことは、

絶対的に正しいリーダーシップがあるわけではなく、
状況に応じてリーダーシップスタイルを使い分けることが必要

ということです。
繰り返しますが、日本技術士会がリーダーシップ能力として求めているのは、「関係者調整能力」です。

まとめ

重箱の隅をつついた記事、と感じた方もいるかもしれません。
それにしても、日本技術士会が定義する「リーダーシップ」能力は限定的過ぎると思いませんか?

また、間違った解説が広まっているのは、リーダーシップを理解していない技術士が多いからでしょう。
本当に残念に思います。

アメリカのPMBOKを知らなかったら、何にも思わなかったかも、、、

技術士試験採点者が採点しやすいようにリーダーシップの定義をした

と割り切りましょう。相手が望む解答をすることも大事な能力です。

まとめると、
技術士二次試験の筆記試験および口頭試験の「リーダーシップ」に求められているのは、

  • 「利害調整」した結果とその方策 ←こっちが主!!
  • 海外業務遂行経験 ←こっちはオマケ

と限定して問題ありません!!

ただし、この定義は「技術士村」でしか通用せず、そこから一歩でもはみ出ると理解されないことを心に留めておきましょう。

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