“PE”は、プロフェッショナル・エンジニア(Professional Engineer)の略語で、
アメリカの各州ごとに設けているエンジニアの公的免許です。
各州のPEボード(Board=規制委員会)が、一定の要件を満たす技術者に対して専門職技師としての免許(License)を与えます。
これが、「PE ライセンス」です。
「アメリカには50の国がある」と評されるように、州によって「登録要件」が異なりますし、各州のPE法も異なります。
しかし、各州のPE法に共通する基本原則があります。
- 公衆の安全、衛生および福利に影響を与える可能性があって、工学的原理や情報の工学的解釈を必要とする技術的業務については、州政府が認める免許を持つPE(専門職技師)のみに委ねる
- PEライセンスは、州のPE規制委員会が認める一定の学歴、実務経験を持ち、所定の試験に合格することにより与えられる。そして免許を持つPEの業務に対して州のPEボードは査問、懲罰等の権限を持つ。
- PEライセンスは、当該技術者が能力を有すると実証した特定の技術分野別に付与される。
日本の技術士資格に相当しますが、技術士は文部科学省管轄下の国家資格という違いがあります。
この記事では、PEの概要、歴史、メリットの説明をします。
PEライセンス取得にチャレンジしてくれる人が増えたら嬉しいです。
Professional Engineer はP.E.と省略するのが正しいのですが、このサイトでは一般的に使用されているPE (省略の “.” 抜き)で統一します。
PEの技術分野は24分野
現時点で米国PE制度が対象としている技術分野は、大きく16分野に分けられています。
その中で、
- 「土木」は「建設、地盤、構造、交通、水資源」の5分野
- 「電気・コンピューター」は「計算機工学、電気電子通信、電力」の3分野
- 「機械」は「空調、機械設計・材料、熱・流体」の3分野
に分割されます。
つまり、次の24の技術分野に分けられていると言えます。
Agricultural and Biological Engineering | 農業・生物工学 |
Architectural Engineering | 建築 |
Chemical | 化学 |
Civil | 土木(建設、地盤、構造、交通、水資源) |
Control Systems | 計装制御 |
Electrical and Computer | 電気・コンピューター(計算機工学、電気電子通信、電力) |
Environmental | 環境 |
Fire Protection | 防火 |
Industrial and Systems | 生産工学 |
Mechanical | 機械(空調、機械設計・材料、熱・流体) |
Metallurgical and Materials | 金属・材料 |
Mining and Mineral Processing | 鉱山 |
Naval Architecture and Marine Engineering | 船舶・海洋工学 |
Nuclear | 原子力 |
Petroleum | 石油 |
Structural | 構造 *2023年現在、日本では試験が実施されていません。 |
分野別に実施されるPE試験(The Principles and Practice of Engineering Exam)に合格することが、PEライセンスを得るための要件の一つです。
PE制度の歴史
PE制度の歴史について説明します。
PE制度は、1907年ワイオミング州における、「エンジニアと測量士の登録制度」が起源とされています。
1903年にクラレンス・ジョンストンがワイオミング州でエンジニアとして従事し始めたことがきっかけです。
ワイオミング州の州法によって、
“州の水を使用するものは、許可申請書を提出すること。また、土地の概要を示す地図を提出すること”
という規定がありました。
弁護士、公証人、といった工学的教育を受けていない者が地図を作成し、「エンジニア・測量士」として署名していました。
彼らが作成した、不正確で意図的に歪曲された地図によって、多くのトラブルが発生しました。
そこで彼は、「すべてのエンジニアと測量士の登録を義務づける法案」を作成し、1907年に正式な州法として成立しました。
これがPE制度の始まりです。
この州法が成立した数か月後には、水の許可申請書の質が向上し、それまで生じていたトラブルは大きく減少しました。
この州法にならい、ほかの州も同様の法律を制定しました。
しかし、各州が独自の法律を制定していたことによって不便が生じていました。
それは、働く州が変わると、その州法の要件に沿ったプロセスを踏んで一からエンジニア・測量士として登録する必要があったことです。
この不便を解消するために、共通した試験を提供する目的で、1920年にNCEES(National Council of Examiners for Engineering 全米試験協議会)が設立されました。
1984年に、NCEESが作成する試験が全州で採用されるようになり、試験がアメリカ内で統一化されました。
このように、「公衆の利益の確保」を目的として、米国技術士であるPE制度が始まりました。
この技術士と測量士の登録制度は現在まで続いており、PE来世巣保有者は世界中に広がっています。
PEライセンスを取得することのメリット
この記事では、PEライセンスを取得するメリットについて説明します。
「メリット」ととらえるか、「それほどのメリットはないかな」ととらえるかは、それぞれの立場や環境に依存してしまいます。
国際的エンジニア資格
日本の技術士資格とは異なり、PEライセンスは世界中で通用する国際的エンジニア資格です。
海外エンジニアに対して「PEライセンスを持っている」と伝えれば、その人の能力は伝わります。
一方、技術士資格はどうでしょうか?
「PEライセンスを持っている」といえば、虚偽になります。
なぜなら、正式な技術士資格の英語表記は”Professional Engineer, JapanまたはPEJp”で表記され、PEのあとに”日本”を表す言葉が付きます。
日本では、技術士資格の知名度は抜群ですが、海外ではほぼゼロです。
なので、「技術士資格を持っている」だけでは、その人の能力は測れません。
頑張って、「日本技術士資格の仕組み、重要性」を伝える必要があります。
アメリカ文化を知れる
日本の資格試験は、筆記用具や電卓に細かい規定はありません。
PE試験では、筆記用具はすべて配布され、持ち込み可能な電卓の型番まで決まっています。
タオル、ハンカチ、飲み物など、一切の私物の持ち込みは禁止されています。
これは、すべての受験生の試験環境を同じにし、できる限りの不正を防ぐための対応です。
不正をして合格し、PEライセンスを取得することは、大きく公益を損なう結果につながるからです。
日本の試験制度は、いかに性善説から成り立っているのかがわかるでしょう。
独占資格である
PEライセンスは、アメリカで管理されています。
アメリカでの業務において、契約・設計図・仕様書のレビュー・承認業務は、プロフェッショナル・エンジニアの独占業務です。
アメリカ国外での業務でも、ASMEといったアメリカで制定された規格に従った計算書・設計図などの承認業務はプロフェッショナル・エンジニアの独占業務となることもあります。
英語力がアップし、アピールポイントとなる
試験は英語で行われるため、一定以上の英語力がないと合格できません。
「TOEIC600点レベルの英語力は必要」と言われることがありますが、この情報はあまりあてにはなりません。
工学系の専門用語を理解できなければ、どんなにTOEIC スコアが高くても問題を解くことはできません。
一方、長文読解力、リスニング力、難解な文法理解能力は要求されません。
PEライセンスを保有しているということは、「英語が読める」だけでなく、「技術的内容について、英語でコミュニケーションがとれる」という証明になります。
転職・就職活動に有利
工学系大学の4年生・院生はPE試験の一次試験に相当する、FE試験の受験資格があります。
学生のうちに、PE試験の受験要件の一つである「FE試験合格」を満たしておくことは、学習意欲・国際感覚のアピールとなります。
そして、PEライセンスは、外資系企業の採用担当者に対しては非常に大きな知名度があります。
「国際的企業で働きたい、海外顧客と対等に渡り合いたい」、というエンジニアには有用です。
まとめ
この記事では、アメリカのプロフェッショナル・エンジニアの概要、分野、制度の歴史とメリットについて説明しました。
世界で活躍するためのパスポートであるPEライセンスを取得し、国際的エンジニアが増えることを期待します。
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