労働安全衛生法

労働災害を防止し、労働者の安全と健康の確保、および快適な職場環境の形成を図るための法律です。

目次

労働安全衛生法と労働基準法の違い

労働安全衛生法と労働基準法は混同されがちですが、次のような違いがあります。

労働基準法

労働条件に関して事業者が最低限守るべき基準を定めた法律。
雇用契約や労働時間等の観点から、差別や強制労働を防ぎ、労働者の権利を守るためのもの。
<労働基準法で定める内容>
・賃金
・法定労働時間、時間外労働時間、休日労働時間
・休日、年次有給休暇
・就業規則 等

労働安全衛生法

労働基準法に加えて、労働者が安全かつ健康に働ける環境を形成するために制定された法律。
健康状態の把握、職場の衛生管理等の観点から、労働者の安全と心身両面の健康を守るためのもの。
<労働安全衛生法で定める内容>
・安全衛生管理体制
・雇い入れ時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断
・産業医面談、ストレスチェック
・換気、照明、感染症対策等の基準 等

労働安全衛生法の基準

労働安全衛生法の「安全基準」

労働安全衛生法では、一定の安全基準が設けられています。事業者に危機管理を促し、労働者が業務中にさらされる可能性のある危険を、未然に防ぐことが目的です。
事業者は、新たに労働者を雇用した場合や労働内容に変更があった場合、労働者に対して安全衛生教育を実施することが義務付けられています。
安全衛生教育で指導すべき事項は以下の通りです。

・使用する機械や原材料の危険性、有害性
・使用する機械や原材料の取扱方法
・安全装置や有害物抑制装置等の作業手順、点検方法
・保護具の性能、取扱方法
・業務における疾病
・事故が発生した際の対応
・職場の清潔保持

労働安全衛生法の「衛生基準」

労働者が健康かつ安全に働くためには、衛生面にも配慮が必要です。
労働安全衛生法には事業者が遵守すべき衛生基準も定められています。主な衛生基準の内容は以下の通りです。

・十分な休憩施設の設置
・有害な作業場がある場合は、作業場の外に休憩施設を設置する
・坑内作業場所の通気設備の準備
・労働現場の照度
・月に1回以上の産業医の巡視
・防毒マスクや粉塵マスク、囲い等の用意
・作業現場の温度、湿度の調節
・照明設備の定期点検
・夜間労働者の仮眠設備の設置 等

労働安全衛生法の「特別規制」

労働安全衛生法には、安全基準や衛生基準以外に特別規制も設けられています。
これは、厚生労働省が定める特定の有害業務を行う場合に、その業務に関する特別な要件を定めたものです。
特別規制は主に以下の内容です。

・建設業の下請け業者は、厚生労働省が定める場所に危険防止の措置をとらなければならない
・クレーン等の機器を操縦する際は合図を統一する
・事故現場等の標識を統一する
・有機溶剤等の容器の集積場所を統一する 等

労働安全衛生法で企業・事業者が守るべき重要事項

1.スタッフの配置

名称役割備考
総括安全衛生管理者事業場の安全・衛生に関する業務の統括管理。安全管理者と衛生管理者をとりまとめる。何人以上の事業場で選任する必要があるかは、業種区分によって異なる
安全管理者安全衛生業務のうち、安全に係る技術的事項の管理常時50人以上の労働者を使用する一定の業種の事業場に対し、選任が義務づけられている
衛生管理者安全衛生業務のうち、衛生に係る技術的事項の管理常時50人以上の労働者を使用する事業場に対し、選任が義務づけられている
産業医労働者の健康管理について、専門的な立場から指導・助言を行う役割を担う医師常時50人以上の労働者を使用する事業場に対し、選任が義務づけられている
作業主任者作業の直接指揮や使用する機械の点検、安全装置の使用状況の監視など政令で定められた特定の作業を行う際、免許取得者や技能講習修了者の中から、選任することが義務づけられている
統括安全衛生責任者複数の関係請負人の労働者が混在する場所での、労働災害防止に関する指揮・統括管理特定の業種・場所で、選任が義務づけられている
安全衛生推進者(衛生推進者)労働者の安全や健康確保などに係る業務(「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること」「労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること」など)常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場で、選任が義務づけられている

50人以上の労働者がいる事業場では、業種を問わず「衛生管理者」「産業医」を、一定の業種では「安全管理者」を選任する必要があります。

2. 労働者への安全衛生教育実施

一般の労働者に対しては、「雇い入れ時」や「作業内容の変更時」に安全衛生教育を実施する必要があります。
「危険・有害業務」に新たに従事する労働者には特別教育を、現に従事している労働者に対しては安全衛生教育を実施しなければなりません。
加えて、新任の職長や指導・監督者への安全衛生教育の実施も義務づけられています。

3. 労働災害防止の措置

労働災害を防止するための措置は、危険防止や健康被害の防止により労働災害が発生しないように努めることです。
具体的には、設備や機器、作業で発生する危険への対策や、放射線や高音、振動等に対する健康被害防止対策が挙げられます。

4.リスクアセスメントの実施

労働安全衛生法第28条第2項に規定されており、製造業や建設業の事業者はリスクアセスメントと、リスクアセスメントに関連した措置を実施することが義務付けられています。
リスクの見積り、作業現場の有害性や危険性の特定、リスク低減措置の決定等、リスクへの措置という一連の流れを実施します。

5.健康保持・推進のための措置

労働者が健康に働き続けるための、定期的な作業環境の測定や健康診断の実施、病者の就業禁止等が定められています。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、1年ごとに1回の定期健康診断が義務付けられています。
健康診断の結果は、労働基準監督署に報告したうえで5年間の保管が必要です。従事する業務の内容(「危険を伴う作業に従事する労働者」や「深夜労働をしている労働者」)によっては、上記に加えて特定業務健康診断を行わなければなりません。実施頻度は6カ月以内に1回、胸部X線検査は1年以内に一度。

ストレスチェック
2015年12月1日より、労働者数50人以上の事業場に対しストレスチェックの1年に1度の実施が義務づけられました。
労働者数50人未満の事業場の場合、ストレスチェックの実施は努力義務となりました。

6.快適な職場環境の整備

労働安全衛生法では、作業環境・作業方法・疲労回復支援施設・職場生活支援施設の4つの視点で、快適な職場環境整備を促しています。

照度一般的な事務作業 300ルクス以上、付随的な事務作業 150ルクス以上
便所独立個室型の便所の設置。10人以内の場合は男女区別の例外適用
休養室・休養所50人以上または女性30人以上の場合、男女区別した休養室の設置
休憩の設備実状やニーズに応じて、休憩スペースの広さや設備内容について衛生委員会等で調査審議、検討を行い、その結果に基づいて設置
更衣室・シャワー設備性別を問わず安全に利用できるよう、プライバシーの確保に配慮
温度18度 以上 28度 以下
測定方法検知管方式と同等以上の性能を有する測定器として、一酸化炭素:定電位電解法と二酸化炭素:非分散型赤外線吸収法(NDIR)も使用可能
救急用具各事業場において想定される労働災害等に応じて決定。具体的な品目規定削除

2019年労働安全衛生法の改正ポイン

労働時間の状況の把握

「タイムカードによる記録」や「パソコンの使用記録」など、客観的な方法で労働時間を把握し、労働時間の状況の記録は3年間保存する必要があります。
健康管理の観点から、「裁量労働制の適用者」や「管理監督者」を含む全ての労働者が対象です。

医師による面接指導

改正点改正内容
医師による面接指導の対象となる労働者の要件「週の実労働時間が40時間を超えた時間」が1カ月当たり80時間超の労働者から申し出があった場合、医師による面接指導の実施を事業者に義務づけ
労働時間に関する情報の通知「週の実労働時間が40時間を超えた時間」が1カ月当たり80時間超の労働者に対し、労働時間に関する情報の通知を事業者に義務づけ
研究開発業務従事労働者への面接指導「週の実労働時間が40時間を超えた時間」が1カ月当たり80時間超の研究開発業務従事労働者に対し、本人の申し出なしに、医師による面接指導の実施を事業者に義務づけ
高度プロフェッショナル制度適用者への面接指導「健康管理時間の超過時間」が月100時間超の高度プロフェッショナル制度対象適用者に対し、本人の申し出なしに、医師による面接指導の実施を事業者に義務づけ

法令等の周知の方法等

産業医を選任した場合、「産業医の業務の具体的内容」や「産業医に対する健康相談の申出の方法」 「産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取扱い方法」について、労働者に周知する必要があります。

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